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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

デジタルカメラ その3
 アマチュア写真家のあいだでは、デジタル写真をどう、とらえるか大変に迷っているところがあると先月この連載で書いた。これを読んだ知り合いの写真家、カメラマンのかた数人から、自分の考え方はちがうとご意見をいただいた。

 これには、前回、紹介した藤沢湘南台写真クラブの方々からのものもあった。これを聞いて感じたのは、デジタル写真を経験した度合い、年数、はじめた時期によって考えかたがいちじるしく変わってくることだ。

 アマチュア写真家のなかで、かなり早い段階からデジタル写真をやり始めた人たちは、写真を加工することからデジタルがはじまっている。この人たちの大部分はデジタルカメラが普及していないころからPCをつかって画像を取り込み、この画像を写真ソフトでいろいろと加工変化することをやってきた。

 私の周辺にも、10年ほど前、多分1994年頃、ADOBEのPHOTOSHOPが3.0Jバージョンが発売されたころから、デジタル写真をはじめた人たちが5人いた。私はそれより2年ほど早くデジタル写真をやっていたので少し先輩ということで勉強会をはじめた。

 あのとき期せずしてみんながやり始めたデジタル写真は、ソラリゼーションとポスタリゼーションだった。ポスタリゼーションは写真学校でも2年生の特別ゼミがあって、大変人気があった。学校では1年間かかって1枚の作品を作っていたが、とにかく大変な手間がかかった。

 ところが、PCでフォトショップをつかうとトーンカーブを動かすだけで、あっという間にこれが可能だ。しかもいろいろ変化させることが出来る。だからしばらくはPCに取り込んだ写真をポスタリゼーションなどで変化させて作品を作ることが流行った。

 それが半年ほどで飽きると、次はいろいろなフィルターを使って画像を変化させることをやり始めた。そして、次は画像の合成、消去だ。90年代に出版されたフォトショップの解説書、ガイドブックを見ても画像変換や合成のことばかり書いてあった。

 この人たちは、画像を加工したり合成したり、一部消去したり彩度や色彩のバランス、コントラストを変えることをやってきている。これがデジタル写真だと思ってやってきたが、現在では、これは写真本来のものと少し違うのではないかと思い始めているのだ。

 彼らのなかには数年前に公募された朝日のデジタル写真コンテストなどに応募した人もいて、ある意味合いでは、そんな加工写真がデジタルだと思いこまされていた。しかし必要に迫られて自分の撮った写真をインクジェット・プリンターで出力して写真を作っているうちに、デジタルでの加工写真ががあまり意味あることとは思えなくなってきた。

 話は違うが、エプソンのコンテストがある。確か96年からはじまったと思う。このコンテストはプリンターで出力されていることが応募条件の一つで、二つの部門のうち写真部門はストレートフォトが中心で写真表現を追求した作品となっていた。もう一つグラフィック部門があって、これは写真素材の使用を必須条件としていてイラストをふくめてグラフィック表現を追求したものとなっていた。

 1等賞金がどちらも200万円であったから、デジタル写真をやっていた人たちが競って応募した。これまで加工写真こそデジタル写真だと思っていた人たちは応募した作品がグラフィック部門に回されてしまう。自分では写真だと思って作ってきた作品が写真ではないと言われて戸惑ってしまった。

 こんな経験をしているものだから、自分たちがやってきたデジタル写真は本来の写真とは違うのだと軌道修正をし始めた。彼らはモンタージュしたり、画像の一部を消去したり、いろいろなフィルターを使用して画像を変えた写真は、写真ではないと思い始めた。

 もう一つ、この人たちがデジタル写真をはじめたころは、デジタルカメラがなかった。あったけれども、カシオQV10がやっと売れはじめたころだから、銀塩フィルムカメラの代わりを務めるような機械ではなかった。

 それがしばらくしてデジタルカメラを使い始める。これをPCで入出力をしているうちに写真をいじくり回すことの馬鹿らしさに気がつき始める。画像を加工するよりも写真を撮ることの面白さに帰ったといえるだろう。

 こういう経験をしているから、最近の写真コンテストの入選作にデジタル加工写真の初歩的なものが上位に入選しているのを見て、首を傾げてしまうのだ。だからついこんなデジタル加工写真は写真ではないと言うことになる。

 現在、デジタル写真をやっている人で、まったく受け取り方の違う人たちがいる。デジタルカメラの新製品が次から次に発売され、かなり画質が良くなってきたころからデジタルカメラを使い始めた人たちだ、この人たちは画像を加工する興味など、はじめから全くない。

 ネガ、ポジのフィルムをスキャンしてPCに取り込みデジタル化するという経験をしていない人たちだ。彼らは写された写真がきれいにプリントされ、リバーサルあるいはネガカラーフィルムで撮影し引き伸ばした写真と同じレベルに見ることができれば良いと思っている。

 アナログ写真からデジタル写真へ変化をたいしたことに思っていない。言い方を変えればフィルムが変わったくらいにしか感じていない。

 彼らは、数年前までうちのギャラリーはデジタル写真は一切お断りなどというところがあったことなど信じられない。デジタル写真は手を加えるものだなど考えても見ない。だから、写真コンテストで応募条件にデジタルも可などと書いてあるのを不思議に思っている。

写真説明
デジタル写真、初期の人たちはこんな写真を作ることからはじまった。
写真(1)秋田のブナ山 カラー原画
写真(2)秋田のブナ山・ソラリゼーション
写真(3)秋田のブナ山・ポスタリゼーション