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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

ミクロとマクロ
 2年ほど前になるが、この連載でマクロ撮影のことを書いた。そのときも疑問に思ったのだが、マクロ撮影という言い方が正しいのだろうかということだ。マクロ←→ミクロは巨大に対する微少である。

 一般的な写真用語でいえば、前回の私が撮影した花の写真などはマクロ写真ではあるがミクロ写真ではないということになる。マクログラフは英語の辞書では拡大図、あるいは原寸以上の図、あるいは写真で、ミクログラフ、ミクログラフィーは顕微鏡写真のことである。

 じつは写真学校で接写の話をしていたら、先生、マクロ撮影とかマイクロとか言われるが、正反対のことを同じ意味に使っているようでわかりにくいと言われた。

 そのとき、マクロレンズでミクロを撮るみたいなことを言ったので質問されたのだろう。これは説明している方はわかっているのだが、接写撮影などしたことのない人には確かにわかりにくい。

 そう言われて一瞬、これは間違ったのかなと戸惑った。マクロレンズと普通に言っているのだが、ひょっとしてあれはマイクロレンズのことを、間違って言っているのではないかと思ったからだ。

 拡大撮影するからマクロ撮影だが、微少なものを撮ると言う意味ではマイクロ撮影になる。マクロレンズというのはマクロ撮影用のレンズのことを言う。戸惑ったのはマクロ撮影用レンズを、マイクロレンズとはっきりカタログに明記しているメーカーがあるからだ。ちょうど、手元にあるレンズのカタログを見ると、ハッセルブラッド用のレンズカタログには、はっきりと、ツアイス・マクロ・プラナー120ミリ、マクロ・プラナー135ミリと書いてある。

 ところがニコンのレンズカタログを見るとマイクロ・ニッコール55ミリ、マイクロ・ニッコール105ミリ、AFズーム・マイクロ・ニッコールED70〜180ミリと、マイクロレンズと書いている。

 どのメーカーがマクロと表記し、どのメーカーがマイクロなのか、全部を調べたことはないので、はっきりとはわからないが、キヤノンをはじめほとんどのメーカーはマクロレンズと言っているのだろう。でも両方使われていることは間違いない。

 ニコンがマクロ撮影用のレンズをマイクロレンズと言っているのは、言葉に対するこだわりがあって言っているのかも知れないし、単に昔からの習慣で言っているだけかも知れない。

 写真の用語には紛らわしいところがたくさんある。マイクロ写真、あるいはマイクロフィルムというのがある。これは、新聞社や、図書館などで使われているが、超微粒子フィルムで新聞や図書などの紙面を撮影して、これをリーダーで読みとったり、プリントするシステムだ。簡単に言えば縮小コピーを取るものである。

 一方、マクログラフ、マクロフォトグラフィあるいはマクロ写真は拡大写真のことを言う。拡大図つまり、原寸以上の図や写真のことである。

 さらにややこしいのは、マイクログラフィを辞書を見るとこれには顕微鏡写真の意味がある。原寸以上に拡大している、のだからマクログラフィで良さそうなものだが、これははっきりと区別している。マクロレンズで撮った写真をマイクログラフと言わない。

 接写は英語でいえばクローズアップのことだが、接写とクローズアップをすこし意味を違えてつかっているところがある。接写と言う言葉は、はじめはクローズアップレンズをつかってレンズの撮影至近距離より以上に被写体に近づく撮影法を言っていたと思う。それが現在のマクロ撮影全般をいうようになった。

 私たちは昔から今のマクロ撮影のことを接写と言っていた。このごろは、カタカナ言葉で言うのが、当たり前のようだから、接写などという言葉を使うとわかりにくいと言って評判が悪い。マクロ撮影というのが普通だ。学校で学生に昔、接写で苦労した話などすると、接写ってマクロのことですかなどと、わざわざ確かめる学生が出てくる。

 ところで接写の話だ。マクロ撮影の話である。花の写真が流行っている。年配のご婦人で、最近になって写真を撮り始めた人は花を撮るのが好きだ。あらたまって写真をはじめると、ほとんどの人が一眼レフカメラを買う。しかもその大部分が初心者向けの普及型一眼レフカメラである。

 この種のカメラにはズームレンズが取り付けられている。一般的には35ミリから75ミリあるいは80ミリまでくらいのズームレンズである。このズームレンズにはマクロ撮影機能がついている。

 これが花の写真が流行った原因だという人がいる。簡単にマクロ撮影ができるからである。次号にマクロ撮影のことを続けて書こう。