TopMenu


吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

クイックセット・ハスキー・ハイボーイ・スタビー
 アメリカ・クイックセット社の三脚、ハスキー・Huskyの一番の特徴は、ヘッドがはずれないことだ。一般の高級三脚は三脚部分と雲台が別になっていて、取り外しが出来る。ところがクイックセットは雲台と三脚が一体になっていた。最初の製品が出来て30年近く経ってヘッドとの分離型製品も発売されたが、クイックセットの設計思想には本来一体型の三脚しかなかったのだろう。

 三脚に要求され機能はきわめて単純なものである。カメラが確実に固定され、ぶれないこと、取り付け、取り外しが簡単なことである。あとは取り付けたカメラがスムースにアングルや方向を変えることが出来ないといけない。

 こんな単純なことなのに、使ってみると具合の良い三脚と大変に使い心地の悪い三脚がある。三脚部分について言えば、脚部分を伸ばしたり縮めたりするときのスムースさと止めるときの締め具合、それにはパイプの太さのようなものも関係があるかも知れない。目方の配分の良さも影響するだろう。

 私が初めて使った三脚は伯父からバルダックスを借りたときで、確か10段伸ばしの携帯用三脚がついていた。この三脚などは伸ばした脚が細いものだからブルブル振動して止まるまで随分時間がかかった。もちろんレリーズを使わなければどうにもならなかった。あの種類の三脚などはない方が良いような三脚で悪い見本だろう。

 10段三脚とか8段伸ばし三脚というのは軽いことが特徴で、現在でも販売されているようだが、このごろはさすがにアマチュアカメラマンでも使わないようだ。あまり見かけたことはない。

 ヘッド部分・雲台については、まずカメラとの接着具合の良さが大切である。カメラのネジ穴に三脚のネジが入って締め付けるのだが、なかにネジの材質が悪いのか、ガリガリいってスムースにいかないものがある。これなどはまず落第である。

 取り付け台坐部分の大きさもあるがしっかりととまり、レバーを動かすことでカメラの方向が自由に動かなければいけない。ほんのわずかレバーをゆるめることでスムースに動き、手を離してもカメラが簡単に前に倒れてしまうようでは駄目だ。

 昔、使っていたスリックはレバー1本でアングル、左右全部を動かす方式であったが、カメラの水平方向を固定するレバーと左右に回転を止めるネジ、アングルを換えるための長いレバーが別になっている方が、使いよいし安定するようである。

 ジッツオ・GITZOという三脚がある。クイックセットより後に輸入されるようになった、この三脚はフランス製で、日本で最初に発売したときの宣伝文句に使ったのだろう。フランス陸軍御用というのがあった。陸軍が写真用に三脚を使ったと言うことではなくて、戦争に使う機関銃などの火器の支えの台座をジッツオが製造しているということだった。

 これは多分、堅牢無比を宣伝したかったのだろう。ジッツオ三脚は写真部でも何台か購入したのでクイックセットと平行して使った。このメーカーのよいところはクイックセットと同じく何十年経ってもモデルが変わらないことだ。最近はカーボンファイバー製の製品を宣伝しているが、アルミ合金製の製品の形は私がつかっていた時代のものと変わっていない。

 使ったことのあるジッツオ三脚をカタログで調べてみると、G1320とG1312という型のようだ。これは現在の定価で大体5.6万円だから、クイックセットとほとんど価格は変わらないが、ジッツオはヘッドを別に買わなければ使えない。クイックセットに比べるとヘッド分だけ高い。これは使い始めの頃と変わっていない。

 ジッツオはヘッド・雲台の種類が多かった。この雲台にラショナル雲台と名前をつけている。ラショナル・Rationalとは理性のある。理にかなった。つまり合理的雲台ということのようだ。この雲台はたしかに精密機械のようにしっかりとしていて、大きいのから小さいのまでどれも使い心地はよかった。

 しかしクイックセットのハイボーイやスタビーと比べてみると華奢というのではないが手荒に使えないような気を起こさせた。クイックセットの方が骨太な感じがするのだ。その当時の写真部の同僚にもジッツオ信奉者がいてジッツオにはデザインがすぐれているとか、いろいろ持ち上げていたが、私の実際の経験からいうと総合点でクイックセットのほうがよかったと思う。

 個人持ちの三脚、共同使用の三脚とクイックセット三脚は何本も機材室においてあったが、クイックセットは壊れることがなかった。記憶ではアングル棒の握り部分のプラスチックが三脚を倒して壊れることがたまにあったようだが、これもまれなことであったし、ほかの部分の故障を聞いたことはなかった。

 最初に買ったクイックセット社の三脚はハイ・ボーイ・Hi−Boyという3段伸ばしのもので、ハイボーイと確かに言っていたのだが、最近のカタログではハイボーイは4段伸ばし、5段伸ばしのもっと背の高いのを言うようだ。ハスキー3段というのが最近の呼び方のようである。

 ハスキー・Huskyには声のしわがれたハスキーの意味もあるが、がっしりした人、強大な、強力の意味もあるから多分後の意味で名付けられているのだろう。このハイボーイを30年以上使った。もちろん一度も壊れたことも故障したこともない。雲台の部分は細かい傷が付いて、金属の地色で光っているが立派な現役である。

 ハイボーイを買ってから10年ぐらい経ったころ、出張用にハスキー・スタビーを買った。スタビー・Stubbyはチビとかずんぐりむっくりの意味だろう。これは4段伸ばしで縮めるとハイボーイより大分背が低い。目方は量ってみないが1キロ以上軽い感じがする。

 スタビーも愛用した。15年ほど前、考古学関係の取材を5年ほど続けていたとき発掘現場と出土品の撮影をするため各地を歩いた。このときはカメラはブロニカ6×7を使ったが三脚はほとんどスタビーを持ち歩いた。泥だらけ砂だらけになることが多かったが具合が悪くなることはなかった。

 今どの三脚でもヘッドは三脚本体と切り離せるようになっているが、その必要性は何だろうか、三脚に載せるカメラによって雲台を替えるということだろうか、それともヘッド部分が壊れやすいから、取り外せたほうが良いと言うことだろうか。

 あれは何となくそうなってしまったように思う。私の経験、朝日出版写真部の同僚たちの経験を重ね足してもほとんどその必要はなかった。取り外しの必用がなければエレベーター部分の機構は単純にすることが出来るし、単純にすることで故障も起きない。

 その意味ではクイックセット社がヘッド部分の取り外しが出来る製品を後から売り出したのは、日本の発売元などから、そんな馬鹿な注文が行ったとでも思うほかないようだ。

 どの三脚を推薦しますかと言われたら、いまは新しい材料カーボンファイバーで出来た新製品が発売されていて、重量の点では、雲台部分をのぞけば目方半分だから、これに食指が動くが。目方のことを考えなければ、文句なしに単純な機構のクイックセット三脚を推薦する。