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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

F100とニコマートFTN
 今年はじめにニコンF5のサブカメラとして発売されたニコンF100の評判がよい。F4やF5を使用している友人たちがF100はいいよと口をそろえて言う。機能的にはF5とほとんど変わらない。なにがいいと言って重量が軽いことがよいと言う。

 F5はボディ重量が電池をのぞいて1210グラムある。カタログを見ると、F100は785グラムである。わたしが今使っているF4Sは電池をいれるとボディだけで1500グラムちかくある。これに標準的なズームレンズ28ミリ〜85ミリをつけると、このレンズの重量だけで500グラムを超えるから全体で2キロ以上になってしまう。

 いかに機能的に優れていると言っても、これではなんとも重すぎる。写真を撮影しやすいのはレンズともで1キロをわずかに超えてくらいまでだと思う。これは自分の年齢に問題はあるかもしれないが、普通以上の身長で人よりは手が大きいと言われる私が重いと感じるのだから、普通の男性の大部分はもちろん、女性ではとても無理だ。

 ニコンF4、F5には今までサブカメラとしてF601やF90があった。私たちの年代がそうだというのではなく、何十年も写真を撮り続けてきた人たちの大部分は、カメラはなんと言ってもそのメーカーのフラッグシップ機(最高機種)が一番で、これを使うべきだみたいな信仰に近い思いいれがある。

 だから、いろいろな人から、どのカメラを薦めるかと聞かれると、ニコンならばF5、キャノンならばEOS1Nしか薦めなかったのだが、ニコンF100が出てからどうも考えを改めなければいけなくなってきたようだ。

 F100が機能的にF5にくらべて劣るのは、ファインダーの視野率の問題が目立つだけだ。F5の視野率が100パーセント、F100が96パーセントである。どうしても100パーセントなければ駄目だという人もいるが、これだけ我慢をすればほかの機能はほとんど変わらない。

 F4の時代にも、いつもそう思って口に出して言ったのは、F4のライト型(軽量型)つまりL型を作って欲しいということだった。F5が発売されるときもF4よりだいぶ軽量になるという前評判であったが、出てみると重量はほとんど変わらなかった。

 F100はマグネシュームダイキャストでボディを作ったり、電源部を小型にすることで軽量化を図ったそうだが、それならばF100などと言わないで是非F5Lをにして欲しかった。これは売れると思う。いまだにF4を使っている小生もこれならば飛びつきます。

 さてニコマートに話はもどるが、ニコマートはニコンFのサブカメラ第1号として発売されたと思う。このカメラの売り物はなんと言ってもTTL露出計内蔵のカメラと言うことだった。ニコンFがでてからだいぶたって、後から付け足すようにできたフォトミック・ファインダーよりも優れていたTTL露出測定機能をボディ全面的に取り込んでいた。

 ニコマートはニコンFの普及型として発売されたカメラであったが、メカニズムでは大変先進的であった。このTTL方式による露出測定機能については、その時代には驚異の性能であったから私たちもこれを買って使った。しかしこのカメラに100パーセント満足して使ったかというと、これは違う。

 ニコマートのことを書いてきて、かなりほめてきたが使っているうちにはいろいろ不満な点が見えてくる。それがなんであったかというとやはり材質、工作を含め日本光学がニコンFやF2をつくるような気持ちでは作っていないことだった。いろいろ手を抜いて普及型のカメラを安く作る目的で作られていたことだ。最初から一流カメラをめざしていなかったと思う。

 ニコマートFTNを数年にわたって徹底的に使ったと思う。いろいろな欠点があった。フィルム捲き上げレバーに指がかかっているとシャッターが落ちないこと、カメラを三脚にのせるとシャッターダイヤルが動かなくなったこと、そして撮影したフィルムを現像してみるとフィルムの一コマ一コマの間隔が違ってしまい、ときにはコマが重なってしまった。どれも一流カメラにはないことと言わざるを得ない。

 一流カメラと二流カメラのちがいはいろいろなことで説明できるのだが、手の持った感じとか、何となくそんな感じがするなど、きわめて抽象的なことであらわす人もいる。人によっては耐久力をあげるが、これも確かだ。

 使っている金属の材質が悪いから手にしたときなんとなく違和感を覚える。フィルムの捲き上げのときのかすかな抵抗感も違いである。傷のつきかたが安っぽいなどという人までいる。

 もっと具体的にファインダーの視野率が100パーセントであることを条件にする人もあるし、撮影したフィルムのコマの間隔がきっちりと等間隔でないようなカメラは駄目だと言う人もいる。たしかにフィルムの間隔がバラバラなのは、そんなこともきちっとできなくては目に見えないところはもっといい加減なのではと思われても仕様ないかも知れない。

 たしかにニコマーFTNは二流カメラであったかもしれないが、先進のメカニズムをもっていた。坂口安吾の小説『二流の人』には戦国時代の知将と言われる黒田如水のことが書かれている。仕えた秀吉にはあまりの才知に徳川家康以上におそれられ、秀吉が亡くなってからは家康に敬遠された。

 多能で時代に一歩先んじていても、世の中に受け入れられず、一流の人、ものとされず、それほどの評判にならないことがある。それはどこか欠けたところがあるのかもしれないし。ニコマートのようにメーカーが最初から二流のものとして作りだし、扱われたためのものもあるのだ。

 いろいろな見方があるだろうが、私は同じ時代のニコンF2にはないものを持っていたニコマートの方を良いカメラとして評価したい。