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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

一眼レフカメラの長所と欠点 2
 大型一眼レフカメラにはペンタプリズムが着いていなかったから、ピントグラスを上からのぞき込んで焦点を合わせ、フレーミングをしなければいけなかった。見える画像は左右逆像である。小型一眼レフカメラは昭和30年代後半から急激に普及した。アマチュアにはペンタックスが人気があり、プロはニコンFだった。

 一眼レフ以前、圧倒的に普及していたカメラは二眼レフカメラだったから、アマチュア写真家たちはレフ形式のカメラにはかなり慣れていた。けれど、ペンタプリズムがついたことで、同じレフカメラでも一眼レフと二眼レフでは機能的にまったくちがうことにすぐ気がついた。

 二眼レフカメラは6×6判の真四角の画面で縦横がないから、撮影のとき縦画面、横画面の心配をする必要がない。しかし35ミリ一眼レフでペンタプリズムがついていない場合は、縦画面の写真を撮ることは大変難儀で大苦労をしなければならない。縦位置の写真のためには、カメラを三脚にのせて横からファインダーをのぞくか、別の透視ファインダーを使う以外に方法はない。ペンタックスになる以前のアサヒフレックスを短い期間だが試用したことがある。このカメラを買ってすぐ手放してしまった理由は、以前この連載で書いたがシャッターボタンが重くてどうしようもなかったこともあるが、縦位置の写真を撮れないことも理由の一つだった。

 二眼レフでスナップ写真を撮るときは焦点板の上についているピント合わせ用のフードと、それについている拡大ルーペを上げて、前方フードの中板を倒して透視ファインダーをつかうか、ピントグラスから眼をはなしてファインダーを見る。カメラは腰(ウエスト)の位置だ。

 このごろは、ウェストレベルといっても何のことかわからなくなってきているが、このウェストレベルーが二眼レフの撮影アングルだった。腰の高さで写真をを撮ることになる。ウェストレベルファインダーとアイレベルファインダーという分け方があった。

 人間の眼の位置にカメラをおいて写真を撮影するのは、ごく自然なことで写真の表現も普通になる。だから二眼レフ全盛時代ウェストレベルを嫌って、ライカやニコンs・キャノンなどのレンジファインダー・カメラをすすめる人もいたくらいだ。

 それがペンタプリズムつきの一眼レフになって、ファインダーの心配はしなくてすむようになった。超広角レンズから超望遠レンズまでファインダーの心配が要らない。しかもどんなに工夫したファインダーよりも正確で視差もない。レンズを交換すれば自動的にファインダーの視野が変わる。いま一眼レフカメラをつかっている人にとっては、そんなことは当たり前すぎて、そんなことを有り難がるなんて馬鹿みたいなものだが、はじめてペンタ一眼レフカメラをつかったものにとってはこれが驚異だった。

 焦点合わせも楽になった。それまでは小型カメラではライカをはじめレンジファインダーによってピントを合わせた。ほとんどが二重像合致式のピント合わせだが、これはレンズの焦点距離50ミリ以下広角の場合は良いが、レンズの焦点距離が長くなってくると正確度が落ちる。これは距離計の基線長が関係していて、わたしの体験では50ミリレンズ以上のレンズは根本的に無理なのだ。

 一眼レフではこのピント合わせが簡単になった。簡単になっただけでなくレンズの焦点距離が長くなればなるほど、そうしてレンズが明るくなればなるほどピントがあわせやすく、しかも正確になる。それは肉眼で直接確かめながら焦点を合わせる仕組みだからである。レンズのF値が小さく暗くなればピントが確かめられない。そうして広角になればなるほど焦点がどこに合っているのか分からなくなる。

 24ミリレンズなどは昼間でもピントがどこに合っているかかわからず、全部焦点が合って見え、しかもレンズを動かすストロークが浅いから、実際に撮影してみると前ピンの写真を作ってしまうことが多い。もちろんこれはマニュアルで撮影することを言っているので、オートフォーカスでは話は別だ。

 ズームレンズは一眼レフカメラがなければ考えられない産物だったし、一眼レフでなければこんなに普及しなかったと思う。普及型の一眼レフカメラにセットで売られているズームレンズはオートフォーカスを前提としている。F値の低いズームレンズをつかってマニュアルでピントを合わせるのは難儀だ。

 はじめのころのペンタ一眼レフはニコンFでもペンタックスでも、ファインダーを覗いて見るとあのファインダーのなかにはレンズをとおしてピントグラスに映し出された画像以外何も見えない。ファインダーというのは本来そうでなければいけないと思う。ところが、その後ファインダーのなかにカメラ技術者は色々なものを持ち込んだ。

 最初は絞り値とシャッタースピード目盛りだ。これをやってみて、いちいちレンズの目盛りやカメラのシャッター目盛りを見なくてもファインダーのなかに見える。これは便利だとなった。つぎはレンズを通して入ってきた光を直接計って露出計を動かすことを考える。この露出計の目盛りもファインダー内に持ち込む。オートフォーカスになれば、距離を合わせるためのフォーカスゾーンをファインダーの真ん中につけることになる。

 ファインダー本来の仕事を忘れてしまうほどだ。性急な結論かも知れないが、これでみんな写真が下手になったと思う。素晴らしいファインダーがあるのにファインダーをしっかり見て写真を撮らなくなったのだ。真ん中にあるフォーカスゾーンに入ったところにピントが合うと言うものだから、ピント合わせのためファインダーの真ん中だけを見て写真を撮る。

 四角いフレームは見ない。写そうとするものはみんな画面の真ん中にくる。画面構成もなにもない。せっかく立派なファインダーがあるのにこれを見ない。使わないになってしまった。人を撮ると画面の対角線の交差するところに顔がくる。アマチュア写真家はこれを笑ってこれを日の丸構図と言うようになった。下手な写真の代名詞である。