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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

ニコンD3の撮像素子
 昨年11月、ニコンD3が手に入った。暮れの忙しいときだったが、12月はもっぱらD3とおつきあいをして年が暮れた。D3をまだ一度もストラップをつけて肩に掛けて持ち歩いたことがない。スタジオで使う大型カメラとおなじ扱いでもっぱら三脚にのせて使っている。

 D3は新機軸が盛り込まれていて、ひさしぶりにこれはいいなーと感心するカメラだ。撮像素子はFXサイズと称する35ミリフィルムサイズ24/mmx36/mm(ニコンの仕様書には23.9/mmx36.0/mmと書いてある)のフルサイズであるが、ボタン一つの切り替えで、DXサイズというAPS-Cフォーマットの16/mmx24/mm(正確には16.7/mmx23.4/mm)の通常のデジタル一眼レフサイズと4対5比率の24/mmx30/mmの3通りの大きさに撮像範囲を切り替えることが出来る。

 D3が発表されたとき、24/mmx30/mmサイズが設定できると聞いて、瞬間的に最初のニコン35ミリカメラはこのサイズでなかったかと思い出した。敗戦から3年後1948年、日本光学が最初に出した35ミリ判のレンジファインダータイプのS型ニコンはフィルムサイズ24/mmx32/mmのニホン判であった。

 4ミリずつ節約すると36枚撮りフィルムで4カット余分に撮影できるなどと言うマニアもいたそうだが、目的は印画紙のサイズに比率を合わせることであった。

 日本光学の技術者たちは、ライカ判35ミリフィルムの24/mmx36/mmサイズを横長あるいは縦長過ぎると判断したから4ミリ短くして32x24サイズにしたのに違いない。このニコンは香港で最初に発売されたうだが、評判があまり良くなくて、すぐ24/mmx36/mmサイズの通常の35/mm判に変更したと言われている。

 24/mmx30/mmと24/mmx32/mmで2ミリ長さがわずかに違っているが、60年前の日本光学の設計者たちの遺伝子が引き継がれたのか、雀百まで踊り忘れずか、50年経って4対5=1対1.25サイズがD3に復活したのかも知れない。

 筆者が関係しているアマチュア写真月例会がいくつかある。現在もカラーモノクロとも銀塩写真専門の月例会を開いているところもあるが、それ以外はほとんど月例に出品する写真は、圧倒的にA4サイズのプリントが多くなってきた。従来は四つ切り判プリントだったがデジタルカメラを使用する人が増えてきてほとんどの出品作品はデジタルプリントに変わってきた。

 メーカーがインクジェットプリンター用の印画紙に四つ切り判と半切サイズのプリント用紙を発売しているのでそれを使用して月例やコンテストに出品しているカメラマンもいるが、大多数の人がプリントにはA4サイズを使っている。

 ご承知のようにA4サイズは公用文書をはじめ用紙の基準になっているようだ。A4判は210/mmx297/mmで比率は1対で1.44である。従来からの写真用印画紙のサイズは四つ切り判254/mmx305/mmで比率は1対1.27・半切判で356/mmx432/mmで比率は1対1.21になる。

 35/mm判=ライカ判の比率が1対1.5=2対3であるから、D3の新しい24/mmx30/mmサイズは比率で1対1.25となるから1対1.27のA4サイズよりは1対1.27サイズの四つ切り判サイズ、1対1.21の半切判サイズの比率に近い。

 ニコンD3の新しいサイズは写真用紙の比率に向けて作られている。D3が24/mmx30/mmサイズだけで24/mmx36/mmのFXサイズを作らなかったら、多分戦後すぐに製造したニコンS型と同じように大反発をもらうことは間違いなっかっただろう。

 もともと印画紙のサイズはフィルム、乾板のサイズで、フィルムのフォーマットはおおむねインチを換算したものといわれる。たしかに大型カメラ用の8x10や4x5はインチサイズだ1インチ=25.4/mmで概算8x10は200/mmx250/mm 4x5は100/mmx125/mmで比率はどちらも1対1.25になる。

 大キャビネと言われる5x7は130/mmx180/mmで比率は1.対1.38だ。手札判というサイズがあった。89/mmx127/mmで1対1.45だ。フィルム、乾板のサイズから印画紙の比率が決まったというのは全部には当てはまらないようである。

 35/mmフィルム=ライカ判は1920年代ライカの技術者オスカー・バルナックが映画用フィルム2駒分を1駒のフィルムサイズにしたと言われている。この2対3の比率によって何百万というカメラが作られた。細長くて紙のサイズとも合わず黄金分割比の1対1.68とも異なるこのサイズが定着したのは何故だったのか。

 ある時代から、35ミリフィルムは撮影のときのフレーミングが大事で引き伸ばしのときにトリミングをしないのが原則といわれ、アマチュアカメラマンも引き伸ばしにあたって横画面の場合、四つ切り判を上下を空けてフィルムに写っている画像全面をトリミングせずに伸ばした。比率1.対1.48の四つ切りワイド判印画紙が出来たのはずいぶんと後のことである。

 デジタルカメラの時代になって撮像素子の大きさもいろいろ変わってきたが、それにしてもずいぶんと勝手なサイズのものが現れる。はじめはビデオカメラの撮像管のインチ寸法からきている。そのサイズがそのままスチールカメラの撮像素子の寸法に使用された。

 記憶をたどっても○1/3型=3.6/mmx4.8/mm ○1/2.7型=4.0/mmx5.3/mm ○1/1.25型=4.3/mmx5.7/mm ○1/2型=4.8/mmx5.4/mm  ○1/1.8型=5.2/mmx6.9/mm ○2/3インチ型=6.6/mmx8.8/mm とある。

 コンパクトデジタルカメラと一眼レフデジタルカメラとの撮像素子の面積の違いは大きい。オリンパスが採用しているフォーサーズでも13/mmx17.3/mmあるしAPS-Cサイズは15.6/mmx23.7/mmだから、その差には驚いてしまう。

 最近発売のコンパクトデジタルカメラにこれは欲しいなーと思わせるカメラが数点ある。キヤノンパワーショットG9、ニコンクールピクスP-5100とリコーGRデジタルGR-2である。リコーのGR-2をのぞくと、流行の超薄型で光学ファインダーなしのカメラと違ってグリップが比較的しっかりして、どちらかと言えば古い形のコンパクトスタイルである。GR-2はフィルムカメラのGRのデザインをそのまま取り入れている。

 いずれも1000万画素をこえる撮像素子CCDを使っている。CCDの大きさは、ニコンが1/1.72型、リコーが1/1.75型、キャノンが1/1.7型でほぼ1/1.7に近い。1/1.7型はミリに換算すると5/mmx7/mmくらいで1センチ四方もない。

 アマチュア写真家の月例会で、このCCD1センチ四方にも満たないコンパクトカメラで撮影した作品を出品する人がたくさんいる。この作品がキャノンD-5のようなフルサイズに近い撮像素子のデジタル一眼レフカメラで撮影した作品と見比べて遜色ない仕上がりなのだ。これはA4サイズ、四つ切りサイズ以下だから比較できるのだという人もいるが、実際に並べて見て見劣りしない。

 同じものを比較するためにコンパクトデジタルカメラ都一眼レフデジタルカメラをならべて撮影したことはないが、24/mmx36/mmフルサイズと5/mmx7/mmサイズが同じレベルの写真表現で競えると言うことは、どういうことなのかと考えてしまう。

 大きいサイズの撮像素子は1画素あたりの面積が広いのだから、ダイナミックレンジの広さをはじめとして、いろいろな能力を持ち情報を豊富に取り込むことが出来るのは想像が出来る。もし小さな撮像素子が持つ大きな画素数を面積あたり35ミリフルサイズ撮像素子に持ち込んだらいったいどういうことになるのだろうか。

 D3の撮像素子の大きさにコンパクトデジタルの撮像素子の画素数を大きさに比例して拡大したら、単純計算でも面積ほぼ24倍だから24倍すると、とんでもない画素数の受光素子が出来上がる。こんなことは技術的には難しくなさそうだが、大きくなりすぎて扱いにくくなるのだろう。

 でも初期のデジタルカメラ時代1000万画素などとはとんでもない。と言っていたのだから、どういう発展のをしていくのか。

 何故フィルムに画像が写るのか、こんな銀塩写真の原理でさえ正確に理解できない筆者にはデジタル写真がどう発展していくのか予測できない。