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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

最近写真事情
 連休前4月の終わり、富士写真フイルムが3月期の連結決算で写真フィルム、カメラの関連事業が757億円の赤字で10月から持ち株会社への移行し、社名は富士フイルムホールディングスとなり富士写真フイルムから『写真』がなくなると発表した。

 デジタルカメラ関連は売れ行き好調だが、カラー写真フィルムなどの落ち込みと先年からの構造改革で機構替えの費用が増えていることが赤字の原因のようだ。この記事の新聞の見出しなどが『写真』が消えた富士フイルムみたいなことだったから、プロ、アマチュアを含めて衝撃的に受け取られた。

 連休中にアマチュア写真家のある月例会に出かけたら、皆さん、新聞の富士フイルムの写真抜きの見出しが気になって、銀塩、デジタルを含めて写真はどうなるのかと話題になっていた。

 持ち株会社への移行を発表する記者会見で、富士の古森社長は「社名から『写真』が消えても銀塩写真の文化は守り抜く」とつけ加えたそうだが、そんなことではショックは治まらない。銀塩写真をつづけている写真家はもちろん、デジタル写真をはじめたアマチュアカメラマンにとっても写真はどうなるのかと心配は消えない。

 今年は銀塩写真愛好家にとっては年頭からショックな報道がつづいている。1月のはじめニコンがフィルムカメラ事業の縮小を発表した。銀塩からの縮小、撤退である。ニコンF6とFM10の2機種だけの生産をつづけ他は在庫がなくなったら販売を終了するというものだ。

 それから1週間も経たない1月19日には、コニカミノルタがカメラとフィルムから完全に撤退すると発表した。デジタル写真分野を含めての写真からの撤退だから衝撃は大きく広がった。

 国内のデジタルカメラの出荷台数はキヤノンをはじめ期ごとに売り上げ台数が伸び、上り調子のままである。このことから銀塩写真は落ち込んできたが、デジタルカメラは売り上げを伸ばしているから、写真全体としては変わりはない。むしろカメラ人口は大きく伸びている。という考え方があるが、どうなのだろうか。

 デジタルカメラが売れているのは、従来はカメラを使わなかった女、子供が使うようになったからだという人がいる。おんな・こどもという言い方は能力のない人間を差別的に言っているようで好きではないのだが、たしかにデジタル・コンパクト・カメラに関して言えばその通りだと思われる。

 写真をやると言うことの意味が違ってきたのかも知れない。デジタルカメラになって写真の撮り方が変わった。撮り方だけでなく写真に対する考え方も変わってきた。写真の撮り方が変わってきたのはカメラつきケイタイの流行が影響している。

 ケイタイに付いているカメラには200万画素を越えるものがある。10年ちょっと前に発売されたカシオのデジタルカメラQV-10は、20万画素だった。オリンパスが80万画素のデジタルカメラを発売して、はじめてデジタルカメラが写真に近づいたと思った。

 それがいまでは、ケイタイについているカメラが200万画素だという。

 筆者は5月の1週間、男女を問わず若い人でケイタイとコンパクトデジカメとで写真を撮っている人がいると声をかけて聞いてみた。年寄りが声をかけるのだからあまり警戒されない。特に若い女性はこちらがかなりのお爺さんに見えるのだろう、にこにこして声をかけるとにこにこして答えてくれる。これは渋谷、原宿、新宿御苑、淺草、墨田公園で50人ほどに聞いてみた結果だ。

 若い女性及び若い男性は、何か気になるものを見ると、とにかく写真を撮って電話をする相手に見せたり、友達に画像を見せ合ったりする。自分で見るためのものもある。ケイタイにカメラがついていることを条件にケイタイを買ったのか、ケイタイを買ったらカメラがついていたかではデジタルカメラについての考え方が根本的に違っている。

 そんなことを前提にしても、ケイタイの場合、撮った画像をプリントアウトするかというと、ほとんどの人がそんな面倒なことはしない。ケイタイのなかに画像を仕舞っておくだけだ。ケイタイで写真を撮っている人がそうであるとは想像していたのだが。

 驚いたのはコンパクト・デジタルを持っていた若い女性の8人のうち6人が、いままで一度も写真をプリントしたことがないと答えたことだ。カメラのなかのメモリーカードが大容量だから何百枚でも保存できるのでそのままにしてある。一杯になったらカードを替えようと思っていると言った。カメラのアルバム化である。iPodで楽曲が1万5千曲収録出来ますというのと同じ考え方である。

 この質問のデータは取材の場所が片寄っているのと採集した数が少ないから、勝手に結論づけると間違って仕舞うかも知れないが、若者たちのカメラを利用する傾向がおぼろげながら見えてくる。写真は銀塩であれデジタルであれ、プリントはしないが流行している。

 若い人だけでない。デジタルカメラを使っている年配の方のなかにも、写真はプリントしない。以前は一緒に旅行に行って帰ってから、お互いに写真をプリントして交換していたが、最近はCDのやりとりで済ますことが流行している。PCで見るのだそうだ。

 アマチュア写真家のように芸術的作品をつくろうとか、自分の考えを写真を使って表現しようなどとは考えてはいない。デジタルカメラはごく普通の日常的生活道具、あるいは遊び道具として日常生活に密着している。

 そんな話を聞いて、いま写真が変わり目のど真ん中に入ったことを思い知らされることが多い。写真家や写真愛好家たちが写真はどうのと言っている間に、私たちの思惑を越えて写真の本質が変わっていくようだ。

 そう言う写真の流れがある一方で、私の周囲にいるアマチュア写真家のデジタルカメラへの関心は最高級のデジタルカメラへ目が向いている。最高級をのぞむも人たちは、デジタルカメラの最高級は受光素子が35ミリカメラのフィルムサイズと同じ大きさ24×36のフルサイズでなければと思っている人が多い。ニコンの愛好家はD2-Xが出ているけれど35ミリフルサイズのデジタルカメラが近く出るものと信じている。ニコン70DsやD200を使っている人が多いが決して満足していない。ニコン派のアマチュアカメラマンは悩んでいる。

 機種別にカメラ愛好家は自分の好みのメーカーのフラッグシップ機が、ほかのメーカーのフラッグシップ機より優れた性能を持っていることを誇りに思い、たとえ自分はフラッグシップ機をつかわず、2番手、3番手のカメラを使っていても安心するものなのだ。

 キヤノン党の人はEOS-Ds-mark2が出ているが、高価すぎて手が出ない。そこにD-5が発売になって、今年になって私の月例に出席しているメンバーの3人がD-5を買った。この人たちは目下のところ大満足のようだ。キヤノン党のアマチュアカメラマンにとっては目下一番の人気カメラだ。

 ニコンでは新聞や報道関係のカメラマンが現在のニコンのAPSサイズの受光素子のD-2-XやD-2-Hで充分だと言っているのを理由にしているのか、35ミリフィルムサイズのCCDやCMOSに踏み切れないみたいだ。キャノンD-5くらいの値段でフルサイズを出さないと、カメラグランプリで1000万画素こえのD200が受賞しても、我慢できずに転向してしまう人が出てきそうだ。

 アマチュアカメラマンには、ミノルタフアンがかなりいて、ソニーがミノルタのαマークの一眼レフタイプのカメラを出すのを期待している。

 デジタル写真に切り替えたアマチュアカメラマンは現在すでに使用しているカメラに満足していないかというと、かなり満足しているのだ。しかし最上級のカメラで写真を撮ったら、もっと素晴らしい作品が出来ると期待しているから。デジタル写真情報に耳をそばだてている。

写真説明
(1)キヤノンEOS D-5
(2)ニコンD-200

現在の段階で、この2台がアマチュア写真家にとっての人気カメラである。