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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

二眼レフの使い方
 偶然は重なるものだ、忘れられていたカメラに50年ぶりに2度もつづけてお目にかかることになった。マミヤフレックスのことである。先月、写真勉強会を自宅で開いたとき写真学校のOGであるTさんが、マミヤフレックスを持ってきた。使い方がわからないので教えて欲しい。父から最近もらったもので、亡くなった祖父の持ち物だったと言う。Tさんの年齢から考えるとお父さんはいわゆる団塊の世代。団塊の世代の親御さんたちは二眼レフカメラ世代になる。

 皮ケースは付いていなかった。セーム皮で大事に包んである。セーム皮というのも懐かしい最近はあまりお目にかからない。小生のマミヤフレックスに比べると皮張りの部分にカビが生えたのだろう白くホコリがついたように汚れている。

 ファインダーの折り畳み式フードにガタがきていて開きにくい。フードを上げるとファインダーのルーペがかってに上がってしまい、さらに透視ファインダーの前板が倒れてしまうからピントグラスを覗けなくなってしまう。これではどうして使うのかわからないのは当然だ。

 レンズは50年前のカメラとは思えないくらいきれいだ、カビも生えていないし汚れは目立たない。シャッターを巻き上げ、シャッターボタンを押してみると、500分の1秒はあやしいが250分の1秒以下、1秒、B(バルブ)まで、ほぼ正確に動いている。

 フード部分を応急手当して、期限切れの120フィルムを使ってフィルムの入れ方から教えた。二眼レフは実物を手にすれば、その構造はすぐ飲み込めるが、一度も手にふれたことがないと、どうなっているのか見当もつかない。単純な構造だがこのカメラのように故障部分があるとどうしていいのかわからないだろう。

 レンズが2個付いているから立体(ステレオ)写真を写すのかと思ったという若い人もいるくらいだから、上についているレンズはファインダー用で下のレンズが撮影用だということは実際に撮影してみないとわからない。

 二眼レフではファインダーののぞき方に特徴があり、いくつかの方法があるから慣れるまでは難しい。普通はフードを上げて眼を離してのぞき込むのだが、焦点板(ピントグラス)に見える像は暗く、焦点がしっかり合っているのかどうかわかりにくい。正確に焦点を合わせるためにはフード上部についているルーペを上げて眼をルーペに近づけて見ることになる。

 もう一つのファインダーの使い方はルーペを上げてさらにフードの前面のくりぬいた前板を後ろに倒して、フード後部の穴からのぞく透視ファインダー方式だ。彼女が持ってきたカメラは前板のバネが壊れているので、ルーペを上げると前板が倒れてしまう。Tさんが使い方を教えて欲しいと言ったのは、このヘンのことがわからなかったからだろう。

 写真(1)を見ていただくと、二眼レフカメラの透視ファインダーの様子がご理解いただけると思う。後方の四角い窓からのぞくことになる。ほとんどの二眼レフカメラがこの方式の透視ファインダーを付けていた。

 二眼レフカメラの使い方を教えることになった。Tさんは一眼レフカメラは長年使っているから、一眼レフとの違いを教えればよい。その日は、あらまし次ぎのようなことを伝えた。

 二眼レフカメラのアングルはウェストレベルと言われている。35ミリカメラは一眼レフでもレンジファインダーカメラでもアイレベル(眼の高さ)で使うことが多い。ウェストレベルは腰の位置にカメラがあることになる。腰の位置と目の位置では写った写真はまったく変わってしまう。

 昭和20年代、30年代のアマチュア写真にはウェストレベルで撮った写真が多かった。アマチュア写真家の多くが二眼レフを使って写真を撮っていたからだ。アマチュア写真家だけでなく、ごく普通に子供の写真をとったり、旅行の時写真を撮るのにも二眼レフカメラが使われていたからだ。

 二眼レフが使われた理由の一つにDPE(現像引き伸ばし)の問題があった。昭和20年代自分で現像・引き伸ばしをするアマチュア写真家もいたが、ほとんどのカメラマンは撮影したフィルムの処理は街のDP屋さんに依頼した。35ミリフィルムの場合は密着では小さすぎたが、6×6判だと密着でまあーまあー写真が見える。だからDPだけですましてEはやらなかった。

 二眼レフカメラの特徴は真四角な画面だ。30年ほど前から、写真展などでも6×6判を使って撮った写真をトリミングせずに真四角な画面の写真が好まれ四角いままに伸ばした作品が多くなったが、かっては四角い画面をトリミングして紙のサイズにあわせて左右か上下を切って伸ばすのが当たり前のことだった。

 真四角なデザインなどレコードジャケットくらいしかなかった。だから二眼レフではフレーミングをはっきりと決めて写真を撮る習慣が無かった。しかし現在は6×6判の真四角な画面をトリミングせずに引き伸ばしをすることが普通になったから、35ミリカメラと同様に撮影のときフレーミングをしっかりとやることが必要だ。

 二眼レフカメラに付いている75ミリレンズは、35ミリカメラの標準50ミリとちがって中途半端な広角になので、おかしな遠近感(パースペクティブ)がついて扱いにくい。女性をアップで撮影して思ったように写真が撮れないのは、二眼レフアングルで下からあおって撮ると下ぶくれが目立ちアゴが大きく写ってとんでもない不美人に写ってしまうからだ。

 75ミリレンズは35ミリカメラの50ミリとどう違うのか。画角と言う言葉がある。レンズの包括角度だ。35ミリカメラの標準50ミリは画角46゜である。画角はフィルム画面の対角線と焦点距離との割合だが、二眼レフカメラの画角は46゜度より少し広く35ミリフィルムカメラで45ミリレンズをつけたのと同じくらいの画角になる。このわずかな違いが、実際に写真を撮ってみるとおかしな感じになってしまう。

 だから二眼レフではあまり近寄って写真を撮ってはいけないなどと言われて写真の撮り方を教わって人もいるはずだ。

 もう一つ気をつけなければいけないのは二眼レフカメラは撮影用レンズとファインダー用レンズが上下に並んで付いている。同じ焦点距離のレンズが付いているから、焦点板で見える画像と同じものがフィルムに写るはずだがそうはいかない。バララックス(視差)がある。画面一杯に写真を撮ると上部が切れてしまう。

 自動バララックス矯正システムを使った二眼レフものあったがほとんどのカメラにはついていない。だから撮影のとき頭切れを考えて撮らないと、現像してからしまったということになる。35ミリカメラでも一眼レフが求められたのと同様にハッセルブラッドのような6×6判カメラでも一眼レフカメラが必要になったのは、撮影レンズをファインダーに使うことがカメラのある理想に近い形だからだろう。

 さらにもう一つ、これは二眼レフのファインダーを覘いて見ればわかることだが、上から見るファインダーの像は左右が逆像になる。慣れてしまえば大したことではないのだが、左右に動くものを撮るときなど逆の方向にカメラを動かしてしまうことになる。透視ファインダーが必要な理由である。

 こんな話をしていたら、よこにいたメンバーの一人が、先生僕も街の古道具やに並んでいた二眼レフカメラを買いました。ビューティフレックスと言うんですけど知っていますかと言う。3000円で買ったそうである。聞いてみるとそのカメラでまだ一度も写真は撮ったことが無い。部屋に飾っているそうだ。

写真説明
(1)マミヤフレックスの折り畳み式ファインダー。畳み込まれたファインダーを引き出し。ルーペを上げ、前板を後ろに倒し、透視ファインダーにする。
(2)マミヤフレックス。ファインダーを倒してある。二眼レフは大きく重いという印象が強かったが、35ミリカメラが大きくなりニコンFやキャノンEOSと比較すると、小さく可愛く感じられる。