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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

デジタルカメラ・オリンパスC−800L
 先号でカシオQV−10ことを書いた。このカメラをどこかにしまい込んでいたはずと、収納箱をいくつもひっくり返して見たが出てこなかった。デジタルカメラはここ10年ほどのことだから、そんなに難しいところにしまいこむはずはないのに見あたらない。探していたらオリンパスの800Lが出てきた。

 すっかり忘れてしまったようなカメラだが、久しぶりに手に触れているうちに、私のデジタルカメラ元年のころの落ち着かない気持ちを思いだした。

 カシオQV−10を買って1年も経たないうちにオリンパスC−800Lを買った。QV−10は文房具的メモカメラといってメーカー自身が宣伝していた記憶があるから、はじめから銀塩写真と比較してみようなどという気持ちが無かったし、デジタルカメラってどんなものかと探りをいれてみるような気持ちだった。

 カシオのQV−10は25万画素、受光素子の大きさは5分の1CCDであった。96年にこのカメラを買って夏休みにテストをかねてメモカメラの機能を楽しんでいた。夏休みの終わり近い8月の末に朝日新聞朝刊に81万画素受光素子を搭載したオリンパスのデジタルカメラの記事が出た。

 カシオをQV−10を買うときにカメラ業界情報通の友人がオリンパスが画期的なデジタルカメラを出すからカシオを買うのを待ったほうが良いと言われていたから、それほど驚かなくても良いはずなのに81万画素カメラの記事には衝撃を受けた。

 そのときの朝日新聞の記事の切り抜きが出てきた。96年8月28日朝刊となっている。この記事を改めて読んでみると、

「オリンパスはデジタルカメラの分野で一歩出遅れていたが、これほどの製品は驚異的と自画自賛しているところからはじまって。10月発売予定で12万8000円で発売のデジタルカメラは画像の細かさを決める画素が81万あり普及型では世界一と自慢」

「キャノンが7月に発売した57万画素のデジタルカメラ、12万800円を引き合いにキャノンのカメラは超高画質をうたっているが、わたしどもと24万画素の差がある。24万画素と言えばカシオさんのカメラ一台分」

 とわかったようなわからないような宣伝をしている。一般の人が画素数などという言葉を見たのは、多分この記事からだったと思う。画素数が性能の比較の目安になる。画素数の多いものほど性能がよいと知らされ、デジタルカメラの高画素数礼賛がはじまったのもこの記事だ。

 カシオQV−10を使っているときには画素数などは気にもとめなかった。デジタルカメラの画像はこんなものだ、この程度のものだと思っていたからだ。記事を見て、新しもの好きの血が騒ぎ、すぐ購入の申し込みをした。方々に手を回したが結局、手に入ったのは翌年97年になってからだった。

 81万画素になったらデジタルカメラの性能が根本的に違っているのでは、という未知の性能への期待が限りなくふくらんでいった。いままでのフィルムカメラだって新しいものを手に入れたときの踊るような嬉しさは当然だが、カメラが新しくなったからといって写る写真はそれほど変わらない。

 ところがデジタルカメラの場合は写るものがまったく変わってしまうのだ。理科の新しい実験に胸躍らせる小学生のようなものだ。

 はじめて手に取ったC−800Lは流線のデザインがスマートで小さく感じた。持ち歩いていたカシオのQV−10が無骨なスタイルだったたから小さく感じたのだろう。QV−10は130×40×66ミリ重量190g、800Lは145×47×72ミリ重量310gだから大きさだって重量だってこのカメラのほうが大きく重いのに形のスマートさが小さく感じさせたのだろう。

 購入価格は8万5000円くらいだった。付属のパソコンとの接続コードなどを含めて10万円くらいだったように思う。現在のコンパクトデジタルカメラの性能と価格と比較したら信じられない値段である。

 このカメラのテストは楽しくてしようがなかった。性能から言えば、いまどきこんな低機能のカメラはない。記憶媒体が内蔵式のわずか6mbのメモリーであった。これで画質をファインモードにすると30枚、エコノミーモードで120枚撮れることになっていた。

 テスト撮影だからファインモードのフィルム1本分30枚くらいは外に出るとあっという間に撮り終わってってしまう。このカメラでははじめから、銀塩写真との比較を考えていたから画質の良いファインモードで撮ることしか考えていない。だから30枚撮り終えると家に帰ってパソコンにとりこまなければならない。

 スマートメディアが使われはじめた時期だったが、このカメラでは内蔵のメモリーだったから、カメラから画像を直接取り込む以外に方法がなかった。このカメラのテストではMACとの相性があまり良くなくて、ウィンドウズのPCにつないでいたように思う。

 デジタル写真の処理は全部MACでやっていたが、このカメラのためにウィンドウズ用のフォトショップを買った。

 銀塩と比較するといっても、プリンターが現在のように良くなかったから、同時に撮った比較用の銀塩写真をスキャナーで取り込んで、同じプリンターでプリントアウトしてみるようなことしかできなかった。

 出来上がった比較用の写真をクリアケースに入れて、写真学校の先生方に見せたらデジタルカメラの性能よりもインクジェットプリンターでこんなにきれいにプリントン出来るのかと感心された記憶がある。

 デジタルプリントなどあまり知られていなくて、銀塩写真のカラーしか知らない人が多かったから、ほとんどの人は初期のカラーコピーと比較しての感想だったと思う。

 デジタルカメラの画質はこんなものですか、まだまだ使い物になりませんね。という先生と、なかにカシオQV−10のデジタル写真を知っていて、これならカメラとして使えるじゃーないですか。などという先生もいたが。概して評判はあまり良いものではなかった。

 オリンパス−キャメデァC−800Lで記念写真を撮ったり、毎日のうように持ち歩いて撮影した。プリントアウトしてみると画質はキャビネ判くらいでも銀塩写真とは比較にならないほど悪かった。解像度を画素数で言うと銀塩フィルム35ミリは1800万画素とか2000万画素などという言い方が流行っていたが、実感としてはそんな感じだった。

 つかってみての欠点は、動作機能が遅いことだった、素速いシャッターは切れず、機能的にトロイなあーという感じだった。でも撮影してはプリントアウトを繰り返しているうちに、デジタルカメラの良いところもだんだんに見えてきて、これなら受光素子の画素数が増えていったら、銀塩フィルムに負けないようなものが出来るのではないかという期待が出てきた。

 カシオのカメラを使っていたときは、撮影のとき、液晶画面を見て撮ったこともあったが、800Lでは液晶モニターをファインダーに使うことはまったくなかった。このカメラでは液晶モニターを見ようと思ったら、ボタンを押し続けていなけらばオンにならなかったからだ。

 面白かったのは夜景を撮ってみて、感度が銀塩フィルムより優れていることだった。長時間露出をするとノイズが出る。このノイズの出方が露出オーバーだと目立ち、適正だと目立たないことががわかった。暗いところに強いデジタルカメラの性質はこのカメラから現れていた。

 このカメラはデジタルカメラが銀塩カメラに対抗して、写真の世界に十分使えるようになるであろうことを、最初に予感させたカメラだった。

 それまでデジタル写真といえば銀塩フィルムの画像をスキャナーで取り込んで使う以外に方法が無かったときに、まったく異なった方法があることを教えてれた最初のカメラと言うことが出来る。

写真説明
(1)オリンパスC−800L発表の記事が載った朝日新聞
   96年8月28日の切り抜き
(2)オリンパスC−800L裏面