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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

リコーGR1V/GR21
 新年おめでとうございます。

 今年みなさんが、どんな写真を撮るのかに大変興味があります。一方どんなカメラを使って写真を撮るのか?これにも興味が引かれます。デジタルカメラなのか、銀塩カメラなのか。いや銀塩中判カメラなのか。

 12月、写真学校でセバスチアン・サルガドの写真講演会がありました。東京都写真美術館でもサルガド写真展が開かれています。学生をふくめて今ドキュメント写真を目指している若者には一番人気のある写真家です。

 このサルガドさんが去年も写真学校で講演会を開き、その縁で特別顧問に就任することになっての就任記念講演でした。写真学校は渋谷にある日本写真芸術専門学校です。

 講演会で彼はまじめにドキュメントを目指す学生に、写真をとる以前の撮影者のものの考え方が大切であることを説いていました。彼は経済学を研究する学者でした。写真を勉強して写真家になったのではなく、ドキュメントの仕事を始めてから写真を学んだから技術的にはわからないことがたくさんあった。

 フラッシュなどいまだに上手く使えない。先日も東京都写真美術館で取材している若いカメラマンがアンブレラを上手く使って撮影しているのを見て感心した。ストロボライトは目下勉強中である。最近になって6×4.5の中判カメラを使い始めた。新しい機材を使うことで写真の表現が無限に拡がっていくのを感じると言っていたのが印象的であった。

 確かに写真には何を撮るか目的がはっきりして写真を撮ることで楽しみがある。でもそれとは別に何で撮るかの楽しみがある。私の知り合いのアマチュアカメラマンのなかには、何でで撮るかの楽しみに惹かれて写真を撮っている人たちがたくさんいる。

 毎月の月例会や、会合でたくさんのアマチュアカメラマンに会う。また写真を熱心に勉強しているプロ志向の若い人たちにもいろいろな機会に会うのだが、この人たちと話をしていてわかったのは、昨年、一番興味をもったカメラは、デジタルカメラではなく、リコーのGR1VとGR21であったことである。

 写真に興味をもつ大多数の人にとっては一眼レフ型の高級デジタルカメラが関心の的だったから、これはどうも不思議だ。年末、会合で出会った数人に改めて聞いてみると、その理由の一つはリコーがGR1V、GR21を製造中止、発売中止を決めたこと、もう一つは森山大道がGR21を使っているからだそうである。

 リコーは昨年3月、銀塩カメラからの撤退を発表した。どうもこれが逆にこのカメラに興味をもっていた層を刺激したようだ。評判を聞いていて買おうかどうしようか迷っていた連中があわてて買った。

 夏ころまでは、カメラ量販店の店頭に並んでいたが、夏すぎにはこのカメラが姿を消し始めた、そうなるとインターネットで見つけることになる。量販店で品物が並んでいたときは9万8千円のGR1Vが8万円以下で買えた。GR21は定価13万8千円が10万円前後であった。

 中古カメラ店ではGR1が4万円台で、GR21が7万円台で買えた。ところが量販店から姿を消しはじめると中古品の価格が上がって新品の割引価格になり、つい一月前にはGR21を定価で買えて幸運だったなどという知り合いが現れた。インターネットでやっと見つけたそうだ。

 最近はこのカメラで撮影した作品がぞくぞくと月例会に登場している。これは昨年この連載でも書いたことだが、一眼レフを使っていた人、これは単に使っていたと言うよりは使いこなしていたといったほうが良いだろう。この人たちが使うと写真が変わってくる。この変化が大きい。

 一眼レフカメラではしっかりカメラを使っていると言う感じがするが、リコーではカメラを使っていると言うよりはカメラが肉体の一部になったしまったように、なにかのびのびと自由に写し撮っているような感じになる。

 対象が向こうの方からカメラのなかに飛び込んでくる感じだ。対象を切りとるのだがファインダーをあまり意識しないでフレーミングが出来上がっていくようだ。

 何故だろうか考えてみると、やはり目方が軽いことだ。そうして露出のことも焦点合わせのことも考えない気安さ、気楽さがある。神経が撮影対象だけに集中していてカメラに神経が行く前にシャッターが切れる。言い方を変えればシャッターチャンスだけに集中しているとも言える状態で写真を撮るからだ。

 このカメラの良さは、随分昔からのカメラにもあった。それはライカだ。昔、ライカに35ミリレンズを付けて撮ったいた感覚と全く同じものなのだと思う。

 ライカはマニュアルカメラだから、ピント合わせや、マニュアル露出のことがあって、リコーGR1のようなわけにはいかないと思うがそうではない。

 はじめてライカを使ったのはIII型だった。一番愛用したのは35ミリレンズだった。この組み合わせは目方が軽いし、少し慣れてくるとピント合わせは距離計を使わずにレンズに付いているレバーの位置だけでかなり正確に合わせることが出来た。

 現在発売のライカレンズに距離合わせのレバーは付いていない。キャノン4sbを使うようになってもこのレバーの感覚は全く同じであった。ライカがM4の時代になってまた使い始めたときも35ミリレンズはレバーつきのものを使った。

 露出はモノクロフィルムの時代だから、いい加減ということではなく、ほとんど自分の感だけでそれほど狂うことはなかった。シャッターチャンスだけを考えて写真を撮っていたから、考えてみると、今リコーGR1を使って写真を撮るのと同じ感覚で写真を撮っていたことになる。

 一番長く愛用したM4とズミクロンのF1.4・35ミリレンズを取り出して改めてさわってみると一眼レフカメラに比べてとにかく軽い。III型からM4に替わったときは重くなったと感じたが改めて重量を量ってみるとF1.4レンズ付きで750グラムほどだ。

 今一番愛用しているニコンD1−Xはボディだけで1360グラム、24−80ズームレンズが600グラムだから両方合わせて2キログラムになる。

 ライカのIII型は35ミリレンズを付けて530グラムしかなかった。

 リコーGR1はフィルムを入れても200グラムくらいだから、これはもう持っていないようなものだ。

 一眼レフカメラからリコーGR1に替えて写真を撮ってみると、写真が変わるという意味が目方で実感できる。

写真説明
(1)リコーGR1
(2)ライカM4型 ズミクロンF1.4 35ミリレンズつき
(3)このズミクロンから距離合わせレバーの形状が変わった。レバーが真下の位置で距離は2メートル。レバーがインフと真下のちょうど中間点で5メートルに合う。