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あなた一人の高貴な世界を!
Invitation to Platinum Printing


 プリントは一つの世界であり、プリント行為はその世界を創り出します。
 物理と化学の融合した写真の幽玄なメカニズムは様々な材料を選択することによって、独創的なイメージをいくらでも生み出すことができます。写真史を遡ると印画を映し出す原料として様々な感光料が使われてきました。しかし写真産業の“都合”によって、感光材料の主役の座は銀(Au)が今も独占し続けています。光によって変質する物質の中で最も感じ易く、安価で原料として安定した物質が銀であるからです。
 しかし銀の粒子が再現する光と影の様々な階調に飽きたらず、貴金属のプラチナによる光と影の再現、プラチナプリントが今多くの写真ファンの注目を集めています。
 プラチナプリントの材料を扱っているP.G.I.芝浦(〒108東京都港区芝浦4-12-32 TEL 03-3455-7827 FAX03-3455-8133)の西丸雅之さんにプラチナプリントの良さについて伺ってみました。


質問 ラボとしてプラチナプリントを扱っているわけですか。
西丸 プリントはご自分でやっていただくわけで、材料をキットで販売しています。昔プラチナプリントの全盛期には出来合いの印画紙がありました。第一次大戦のころ貴金属を使うことはけしからんという風潮や価格の高騰ですたれていたのが、1970年代にあらためて見直され、ビジネスとして材料を販売する人が出てきました。アーヴィング・ペンがプラチナプリントの作品で有名ですけど、その辺から注目されるようになったのです。日本人ではニューヨークで活躍している井津建郎さん、細江英公さんがおやりになっています。最近はデジタル化の流れに逆行して古典印画に人気が出てきて、プラチナプリントもその一つでしょう。材料は8x10位の大きさをプリントするのに3,000円ほどかかります。必要な薬品でシュウ酸第二鉄が出来合いの薬品としてこれまで日本で手に入らなく、Bostick & Sullivan というところで作って輸入しています。プラチナや他の薬品は薬品会社から買えるのですが、シュウ酸第二鉄というのは自分で調合しないといけなかったんです。それがキットになって売り出されたので爆発的に広まったのです。
質問 プラチナプリントのコツは?
西丸 感度が低いので密着プリントしかできない。基本的に引き伸ばしが出来ないということで、印画紙と同じ大きさのネガを作らなければならない。それが第一のハードルで、それから今のシルバーの印画紙に比べて非常に調子が軟らかいので、それにあった印画紙を作らなければならない。そこをクリアすると自作する印画紙としては、鶏卵紙やゴム印画とかいろいろありますけど、いちばん簡単な印画紙なんですね。35ミリやブローニーから引き伸ばして8x10のネガを作らなければならないのですが、そこのところはアメリカではデジタルで処理する人もでてきています。
質問 デジタルというとどのようにですか。
西丸 原画をスキャンして、それにディザをかけて2値のビットマップにしたものをイメージセッターでネガフィルム出力するという、ディザ(Dithering=複数のドットを混在させる方法)をかけるのは網点を消すためですね。普通のプリンターだとプラチナプリントの方が解像力があるので点がでてしまいますね。ゴム印画などの荒いプロセスだと目立ちにくいのですけれど、やはり製版用のセッター位のレベルだと比較的低コストで作れますね。
質問 プリンターでネガを作るときの解像度は?
西丸 最低で2,400dpiは欲しいですね。2,400で1,200のデータを出すとちょうどというところです。デジタルでフィルム出力を普通にやると8×10で3万円くらいかかっちゃいますからね。
質問 やはり若い人に人気があるのですか。
西丸 若い人が多いといっても結構お金がかかるので、30代が多いですがお年の方も積極的に取り組まれていいプリントを作っていらっしゃいます。印画紙を自分で作るので、ベースの紙をいろいろ選べますから、そこら辺に自由度があって創造性が発揮できて独自のプリントが出来ます。実は西麻布の「ザ・プリンツ(tel.03-3406-1903)」というラボで、既製のプラチナ印画紙を販売しています。紙の選択肢はありませんが、これが好みやご自分のイメージに合えば、より簡単にプラチナプリントを作ることができます。特色はどういう紙を使うかが写真の出来を左右するというところです。しかもプラチナは安定した金属でシルバーのように変色することがないのが強みです。

 プラチナプリントの神髄は、出来合いの印画紙によらない、自分だけの印画紙が作れるというところにある。しかし現在のところネガ自体は銀塩に頼らざるを得ないところが矛盾していると考えられるが、「トーンの許容範囲が広くて、人や動物の柔らかいものから金属の光沢までほんとうにきれいに出るんです。被写体の輝度域が広い方がメリハリがでますね。のっぺりしたものより被写体にコントラストのあるものの方が見栄えがします。」と語るように得もいわれぬ独自の階調と自分で選んだ紙のもたらす希少価値、ほかの何人のものでもない世界を創り出すことができるのだ。

 キットの内容には
1.シュウ酸第二鉄No.1溶液(25ml)
2.シュウ酸第二鉄No.2溶液(25ml)
3.プラチナまたはパラジウムNo.3溶液(25ml)
4.シュウ酸カリウム現像液(1qt)
5.クエン酸洗浄液
 の5種類の液体が含まれている。
 基本的な処方はまず紙を選び、キットの(1)(2)の感光液と(3)のプラチナまたはパラジウムNo.3溶液をネガのコントラストに合わせ調合し、刷毛などを使って塗布する。調合の割合はネガの硬軟の状態(イルフォブロムの場合も含め)に合わせ10段階の調合表が用意されている。パラジウムはプラチナと同じ周期に属する原子量が約半分(195.08に対し106.42)の元素で性質が似ており茶色っぽい色を出す。プラチナとパラジウムを混合して使用し好みの色調に調整することもできる。
 現像はキットの(4)のシュウ酸カリウム現像液で2〜3分行う。
 現像した印画紙を水の中で静かにリンスした後、普通のプロセスでいう定着=洗浄を(5)のクエン酸洗浄液で約15分行いシュウ酸第二鉄を取り除き、最後にゆるやかな流水で30分間水洗して終わる。
 という簡単なプロセスであり、厳密な暗室がいらないという大きなメリットもある。要は紙の選択、良いネガを用意する、ネガの状態に合った現像液の調合。と自分で行う許容範囲が大変広いことだ。しかし薬品は飲み込んだり、吸い込んだりすると危険なので、作業の環境には十分に配慮しなければならない。

 人類は長い間黒の顔料として炭素(C)をあらゆる表現に用いてきた。そして19世紀の写真技術の発明と共に銀(Au)が新しい黒を表現する元素として一般化してしまった。しかし、CにもAuにも表現できないPt(Platinum)の世界が、今世紀の初頭以来久々に復活し脚光を浴びることになった。手軽で高貴な趣きのあるPlatinum Printingを皆さんも自分のものにしてみませんか。(tan)

 以下のHomepageにPlatinum Printingに関して大変親切な資料、技術的アドバイスがあります。
http://www.st.rim.or.jp/~inomata/
http://www.kt.rim.or.jp/~nisimaru/


Reported by Hiroshi Tani.