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教える立場から

写真を学ぶ若者たちについての対談

土田ヒロミ:写真家。東京綜合写真専門学校(通称ヒヨシ)校長。ソフトバンクが提供するE-ZINE内に紹介されています。http://www.softbank.co.jp/ilab/truth/tutida/index.html
築地仁:写真家。ワークショップを主宰。IPMJのスペシャルギャラリー(No.15No.16)でも紹介されています。
司会:あきらけい(IPMJ編集部)

司会(以下 あ):本日は「なぜ若者は写真を撮るのか」ということに関しまして、アンケートを参考にしつつ、実際に写真を撮る若者と接してこられた先生方に、率直なお話しを伺わせていただきたいと考えています。
 まず最初に、ワークショップや写真学校へ来られる生徒さんの動向というのはいかがでしょうか。
築地(以下 築):僕の所は、学校というか、塾みたいなものでして、20人くらいで一年間、ほとんどマンツーマンでやっています。写真を教えるというよりは、写真を通して楽になるというか、自分が一番撮りたいものを撮るという感じですね。
:写真専門学校はどうでしょうか。
土田(以下 土):そうですねぇ、以前、昭和30年代はカメラマンになるために入学するのが一般的でしたが、今は、写真で食えるという認識はあまりありませんね。写真で何かを表現したい、それを自己発見の手段としたい、そう考えて入学する方が多いように感じます。
:アンケートの将来の夢の覧「写真家」と書く方が多かったですし。
:確実に写真家になれると思っている生徒が少ないんですね。昭和30年代は、卒業すればなんとかなるという意識があったと思いますが、今は、そうですねぇ、自分探しといいますか、特に女性にその傾向が強いですね。
 写真というのは、自分と外界との関係性を表現する手段として非常に有効なんです。レンズは外に向いている訳ですし。受験勉強や点数主義教育という、自分の中に入り込みがちな世界で育ってきた若者たちが、外界と接する手段、外界と自分との関係を表現する手段として、写真に取り組んでいるのではないでしょうか。
:そうですね。最近はカメラなどが発達したおかげで誰でも撮れるようになった。特に、女性の場合に多いんですが、2作目くらいでやめてしまう人がいるんですよ。2作目まではすごくいいのに。
:そういう人は、写真じゃなきゃいけない、という感じはないですよね。写真以外のものへ移っていくというか。
:うーん、そういう人がもっと自分を見ようと思ったら、深く入っていけるはずなんですが、どういう訳かやめてしまいますね。
:入学する時は女性が多くても、卒業する時には落ちつくという。
:現象的にいえば、今年私どもの学校のサマースクール参加生徒の85%が女性でした。これが一時的ブームなのか、もっと別のものなのか、詳しく分析する必要はあるでしょうね。
:職業にしたいと考えている人は以外に少ないとも感じるのですが。
:そうですね。他に職業を持って、例えばフリーターであるとか、会社員、主婦であるとか、そういう人が増えていくでしょうね。
:夢の覧に「写真家」と書き、実際に何をやっているかという覧には「フリーター」と書く人が多かったことからも、作家指向なのかなという気もしました。
:ワークショップをやっていて感じるのですが、女性の方が教わることに慣れてますね。男性だと、どうしても上手い下手の論理にすり変わってしまう。自分が撮りたいものを撮りなさい、といった場合でもね。
:技術に関しては、表現欲求があるからこそ上達するのであって、自分の方からその必要性を感じないと身につきませんね。
:なぜ学校へ行くのか、という問題にも関わりますね。
:写真というのは、よくも悪くも一瞬で出来てしまうところがあって、ひらめきというか、そういうものでも出来てしまうんです。しかし、それを持続することは非常に難しい。
:僕達の頃というのは、ドロップアウトしてというか、生き方を変えた方がいいと思って写真を始めた人が多かったですね。写真に対する希望がものすごくあったというか。
:写真に力がありましたからね。個人的な表現と言うよりも、社会的に機能するというか、マスコミにおける写真というものにエネルギーがあったじゃないですか。しかし今は、戦争ですら、テレビで映像がどんどん入って来ますからね。その辺の価値が下がり、プライベートなものが受けるようになった。このような背景が荒木経惟の写真が受ける理由でしょう。
:最近の若者は、外に向かって主張するというよりは、内面に向かっているという。
:写真を教えている先生が精神分析医のようになっていくというか。
:うちの学校では、先生はカウンセラーでもあるといっていますからね。
:では、そろそろまとめの方に、、、、
:僕達の頃は、誰でも写真家になれるという幻想があったんだけど、そのくらいの力でやってくれればと思います。写真家、というものになってほしいですね。
:わたくし的なものもいいですが、それにプラスして、社会学的なものを含んだ作業も期待したいです。写真家というのは、「見る」ことのプロフェッショナルでもあるわけで、視覚認識の問題も扱っていかなければならないでしょう。
:どうもありがとうございました。