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扱いきれずに、捨てられるモノたち

パーティーの席でもらった花束が、いつのまにか
花瓶のなかで枯れている
そういえば、もう10日もたつのだな
薄紫の花弁は黒ずみ、威勢のよかった緑の茎もしおれ
ゴミ入れのなかに、すぐ捨てよう
気がつけば、ゴミ入れの袋のなかもずいぶんとたまっている
駐車場のわきの、ポリバケツのなかに捨ててこよう
ゴミの回収の日の前の日の夜は
7個もあるバケツのどれもがすでにまんぱいで
むりやり、わたしのぶんを押し込んで
上から蓋で押さえつける
ゴミ袋がそれに抵抗して、中から蓋を押し上げる
その上から、もう一度 体重かけて強引に
押し込んでやる
さすがのゴミも、今回はおとなしく
ポリバケツのなかに収まった
ついでに、たまったままの新聞も雑誌も
捨ててしまおう
ざっと、もう一度 おおざっぱにめくって
切り取っておきたいページを荒々しくひきちぎる
あまり雑にやるから、ときおり、肝心な部分まで
破れてしまう
でも、いいや、仕方ないや、とおもう
要するに、そんなに大切なわけでもないのだ
でも、いちおう残しておきたいのだ
ただ、それだけなのだ
荒々しく仕分けして、荒々しく紐でしばり上げ
ポリバケツの横の‘資源ゴミ’のスペースに
つぎつぎと置いてくる
これで、すこしは部屋のなかも片づくだろうか
明日からの生活に、すこしはゆとりができるだろうか
向こうのほうからきこえてくる 犬のうめき声
さっき、帰り道で見かけたシベリアンハスキーだ
自転車置場の横の鉄柵に
くくりつけられたまま、うっちゃられていた
毛並みの荒れた、目つきの鋭い
図体の大きい 犬だった
捨て犬だったのか
もう、あのまま飼い主にも誰にも 顧みられることもなく
明日あたり、保健所へむりやり
連れていかれて しまうのだろうか
誰かなんとかしてやれないのか
誰もなにもしてあげないだろう
彼のブームは、去ったのだ
いまは、もっと小さいかわいらしい
犬や猫やその他得体の知れないさまざまな動物が
はやっているらしい
つまりは、はやりすたりで生きものもモノとして
つぎつぎと消費される
そんな、世の中なのだ


恋の芽を、育てよう

わたしは、すぐに愛しすぎてしまう
とことん、恋にのめりこんでしまう

それが、なんどめかの恋で
なんとなくわかるようになった

はじめのうちは、余裕をもって
てきとうな距離をたもちながら
けっして恋におぼれないように
相手をけっして見失わないように
自分をけっして見失わないように
いい関係をつづけていながら、いつのまにか
恋への期待がふくらんで
自分を押さえられなくなって
相手がとまどってしまうようなことまで
やってあげたくなってしまい
ふと気がつくと、相手はもう
途方に暮れてしまっている

つまりは、わたしが満足したいから
恋のなかに芽生えた可能性を
わたし自身で 摘みとってしまう

相手に、むしろわたしのことを愛させる――
自分のほうから、まだ充分に育っていない芽を
焦って摘みとってしまわないように
相手のほうに主導権は渡して
わたしは、なにくわぬ顔で 横から
その手並みを眺めている
ときにはいらいら、はらはらしながら

そんな、ゆとりのある恋をしよう
――なんて考えながら
どれほどの恋の芽を 自分のほうから
摘んできたのか、わたしは


ぼくらはみな、このまちから行き場を失っている

人通りのはげしい まちなかの
窮屈な雑踏のすきまに
若い子たちが地面に腰を下ろしている
足を投げ出して、アイスクリームを頬ばっている
そのすぐ前を、忙しそうに行き来するひとびと
投げ出した足に、ときおりつまづいて
鋭い視線を投げていく人もいる
そのたびに視線の応酬はするが
若い子たちは、投げ出した足を
けっして引っ込めようとはしない
懸命に、都会のなかの自分のテリトリーを
主張しようとするその姿が
ちょっと頼もしくもある
わたしも、あんなふうに主張してみたかった
わたしが学生のころ、誰もあんなふうに
地面になんて座らなかった
このまちには、もうすきまらしいすきまはないから
すべては、おカネを払って時間も空間も
つかのま買うようにできているから
だからなおさら、ああやって ふてぶてしく
主張してみたかった
でも、できなかった
仕事用の服を着ているいまはなおさらできない
せいぜい雑誌やテレビやクチコミで見つける
気のきいた店や空間におカネはたいて腰を落ち着け
それがなんのトレンドだ経済効果だというのか
ひとびとの自由もやすらぎも、すべてはこのまちでは
おカネをだして買わなければならない
わたしたちの世代は、それを受け入れたのだ
積極的に加担さえしようとしたのだ
いまの若者が、それにアンチテーゼを投げかけているのだ
それすらもマスコミが経済が取り込んで
たくみに商売にしてしまう
すべては儲けるためのネタさがし
若者も、困ったことにはおカネ握らされ、踊らされ
まんまとそれに利用されていることもしらずに
それで、すこしはオトナになったつもりでいるのだから
世代の葛藤もなにも、あのふてぶてしい主張のなかには
かろうじてあるといえるのか、いえないのか わからない


MODEL: Wang Ying
Stylist & Hair Make up: Noriko Sasaki