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平穏な日々

ハーブミントのティーバッグを
カップの お湯のなかで揺らしながら
この一週間に起こったこと
出会った人々のことなどを 考えてみる
仕事場で いつものように仕事をし
気の合う友人たちと 土日は待ち合わせ
買い物に 出かけた
特に、これといったこともなく
それなりにあわただしく、平穏に
日々がすぎていく
これ以上の幸せは、ほんとうはないのかもしれない、なんて
ふと、おもってみたりもする
心のどこかで なにか満たされない 感情を
いつも、持て余しながら 気を張っているのも
肩が凝る
日々の一見、起伏のない表情に慣れきってしまうのも
なにか、ちがうようにおもう
こんなにステキな時間がいつまでも続いてくれたら――
なんて おもうことも、ときどきある
それは、心のなかで、同じことがいつまでも続くなんて
ぜったいにありえない、と
おもっているからだろうか
少しずつ、確実に
なにかが変わっている
たとえば、わたしにしてからが
毎年毎年、一つずつ 歳を重ねてゆく
友だちも変わっていく
もう、亡くなってしまった人もいる
あのとき、わたしは とても辛かった
心のなかで 鈍痛のように疼いている
さまざまな思い出
いまとなっては、もう
そんな人のことを 思い出すことさえ
めったになくなってしまった
道行く人や街や時間の表情に
言い知れない違和感 みたいなものは募ってゆく
けれども、心も顔の表情も 厚いずうずうしい
居直りの気持ちで、生きていくことにだけは
すっかり慣れてしまった


幸せな生活(?)

店が両脇にこれでもかと立ち並んだ狭い狭い道を
バスは、止まったり進んだり止まったり進んだり
苦労しながら、動いていく
車体のすぐ横を すりぬけてゆく自転車オートバイ
歩行者たちの群れ群れ群れ群れ
道が狭かろうが、混んでいようが
人々は、とにかく前進することだけに注意を傾けて
はらはら見ているのは、車内の窓ガラス越しに
見下ろしている わたしだけのようだ

新興住宅街の駅前の賑やかな商店街
バスを降りてしばらく、方向を見失う
狭い道が、あちこちから伸びてきて、あちこちへ伸びてゆく
友人の家に電話をかけなければ――
バスが通ろうとする わたしはよける番だ
身をそらすと、スーパー前の駐輪自転車にコートが引っかかる
反動で身を起こすと、おばさんのからだにぶつかり
ジロリ と睨まれる
この混雑ぶりは、ちょっとすごすぎる
地元の人はそんなこと考えているのかいないのか
慣れっこになっているのか

友人の家に、やっと辿りつく
すごいところね、と
つい口に出てしまう
でも、都心に出やすいし、物価も高くないし
けっこう便利なところなのよ、と
友人は涼しい顔で言う
熱帯魚を入れた水槽から、モーターの音がする
まるまる太った赤ん坊が、ベッドで寝息を立てている
居間の窓ガラス越しに、となりの家の奥さんが
洗濯物を取り込んでいるのがみえる


冬の朝

起きるのがつらい
水道の水が冷たい
部屋の中でさえ
吐く息が白い
ヒーターをONにして
いよいよ、本格的な
冬らしい冬がやってきた
年の瀬にかけても、年が明けてからも
ずっと暖かかった
マフラー巻いたまま電車に乗ると
汗ばむような日もあった
秋の終わりに買った、しゃれた手袋も
する機会がなかった
それが、ようやくできるかと思うと
ちょっと、嬉しい
朝の情報番組のキャスターも
画面の向こう側でふるえている
マイクを向けられた女子校生は
短いスカートに素足を出して
頑張っている
ここのところ、寝不足気味の
日々が続いている
体力も落ちている、と感じる
外に出ると、くもり気味の空
全身を冷気が包み込む
カラスたちが、なにやら騒がしい
道ばたのゴミ袋の山を
鋭いくちばしで突いている
道行く人は、迂回しながら
知らん顔して、駅へと急ぐ
だれかが、なんとかするだろう――
みんな、おもいながら
わたしも、おもいながら
駅へと 急ぐ


MODEL: Wang Ying
Stylist & Hair Make up: Noriko Sasaki