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永遠の愛

ざくろの実が割れて
二人は結ばれた
月のない 夜空のもと
二人は手と手を合わせ
永遠の愛を誓った

馬が丘の上を駈けてゆく
この世における役目を終えた
その馬を憐れんで
男は、こっそりと外の世界へと
逃がしてやった

女は男をなじった
あの馬は きっとあのまま
この世とあの世のあいだを 永遠に
さまよいつづけるだろう
なぜ、生を全うさせてやらなかったのか

よもぎの花が咲いて
二人は子を成した
笑っているのか、泣いているのか
なにか、この世のものとは思えないような
不思議な顔をした 赤子だった

あなたは、いずれ
わたしを愛さなくなるだろう――
女は泣いた
そんなことは絶対ない、と
しきりに男は宥めた

昼が終わり、星が流れた
女は、巻いていた毛糸玉を
床に落とした
毛糸玉はそのまま転がって
崖の淵を、谷へと落ちていった

男は、ジャスミンの香りのする
お香を掌にのせて
立ちすくんでいた
後悔とも畏れともわからぬ感情が
瞬間、心をよぎった

ひと気のない、荒涼たる砂漠を
女が、馬に揺られて去っていく――
それは夢なのか現実なのか
男にはわからなかった
ただ、目に涙だけがあふれていた


人生というのは……

風呂上がりの火照った肌の下で
心臓がまだドキドキしているのは、決して
熱いお湯につかったからばかりではない
今日、上司や男性の同僚たちを 向こうに回して
派手に会議でやり合った
日ごろは、わたしのほうから折れることが多く
主張もほどほどに、あまり自分を中心に
押し出さないように心がけているが
今日は、なぜだか むしょうに
とことん言ってやりたくなった
強く出れば、強く反発を買う――
それも、いまさらながらにわかった
それをまた、強く押し返す
わたしは、なんで あんなに
ムキになったのか――
彼らが、なんとなく頼りなく
いや、情けなく おもえた(?)
一つの方法が固まると
てこでもそこから動こうとしない 人たち
言うことで、わざと悪役を演じる――
などという余裕は、これっぽっちもなく
わたしは、やっぱり あのとき
腹を立てていた
いったん熱くなると、なかなかひかない
わたしの熱
明日、みんなと顔を合わせたとき いつものように
自然に話ができるか
ちょっと不安だ
会社に入りたてのころは、借りてきた猫のように
わたしは、いつも黙って
人のやりとりをそばでききながら
大変なところに入ってしまった、とおもっていた
それが、いまでは まわりの人々と対等に
ひょっとしたら、それ以上に
堂々とやり合えるように なってしまった
人生というのは おそろしい
だんだん、いやな女になっているのではないか
そうおもうと、そらおそろしい
それが生きていくということとイコールだとしたら
人生というのは、ちょっとさびしい


南の海へ

光が水のあいだで遊び、もたれ合い、溶け込むのをみるために
ここまでやってきた、そんな気さえするのだから
太陽が沈むのを惜しむかのようにサーファーたちは
荒いしぶきを上げる波間に漂い、わたしは
わたしの情熱がじっとりと肌にまとわりつく
蒸し暑い南国の空気と砂のはざまにも、光で満たされ
跳ね上がり、ぶつかり合い、くるくると回転するのを
小気味よい感じで眺めている、そのときわたしは
海であり光であり砂であり、海が
わたしであり光がわたしであり砂がわたしだった
わたしの中にほとばしる、人と世界と出会いたい
触れ合いたいという欲求がこんなにも自然に屈託もなく
砂にしみ込む海水となって、わたしのやわらかな骨の底へと
溢れだしてゆく、わたしのこのおもいは、やがて空気の中へと
にじみ出し天高く舞い上がり、やがてあの島の向こうへまでも
届いていきそうだ


MODEL: Wang Ying
Stylist & Hair Make up: Noriko Sasaki