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心の断片

今日の日ざしは、案外つよかった
でも、日が落ちると、風は肌につめたい
電車が通る ガードレールの下
けたたましい音がひびく
ライトもつけない自転車が 光を背負った影となって
わたしの横をすぎていく
向かいから歩いてくるおじさんは
わたしの顔をじっと見つめながら近づいてくる
いちいちにらみかえすのもめんどくさいから
わたしは目をそらす
もうすぐ、わたしの部屋だ
両足の小指が痛い
このまえ、買いかえた 靴が
合ってないみたいだ
癪にさわる
わたしは、いつも靴を選ぶとき
一回は失敗する
買って合わない靴が、でも捨てられなくて
靴箱の中に、いくつもいくつもあるなんて
まるで バカみたいだ
ほんとうに、もっと割り切れた性格に
なれればいいな、とおもう
でも、割り切りすぎて、自分のことばかり
いつも中心にものごと考えている人間が
まわりには、ずいぶん多いな……
それよりは、まだいいのかな――と
そうも、おもう


あなたはあなたのことを……

「おまえはおれのことを、いったいどうおもってるんだ!」

そう、よくいわれた

みんな、それぞれなりに個性豊かで
とても好きなひとばかりだった
でも、最後に必ずこのセリフが
まるでおきまりのように相手の口からとびだして
わたしの心は、そこで閉ざされる

――じゃあ、あなたは、わたしのこと どうおもっているの?

そう、きけば

「おまえが好きだ」
「ほかのだれよりも愛している」
「おまえを守ってやりたい」
「おまえのためなら何でもできる」

……まあ、そんなような“言葉”ばかり

わたしは、あなたがあなたの夢を
あなた自身を
一生懸命、追いかけている姿が好きなのに
あなたの夢は いかにもひ弱で
あなたは、あなたが誰であるのかさえ
ほんとうは わかっていない

わたしは、あなたの夢を支えるために
あなたの弱さを保障するために
いるのではない
一緒になって、あなたの孤独と わたしの孤独を
分かち合いたいのに

あなたは結局、自分のことばかり
大切にしている
そのことにあなたは
すこしも気づいていない


そんな、毎日

くさむらにかなでられる
虫の音ばかりが耳について
眠れない 夜
いろいろなことが
いろいろなひとが
おもいだされる
だれかにやさしくされたことや
ずいぶんと恥ずかしいおもいをしたことなど
ぼんやりと頭のなかに
おもいうかべては
もう、ずいぶんと いろいろなことや
いろいろなひとびとと 出会い、別れ
それっきりになってしまったな、と
こころもち 後悔してみたり
反省してみたり するけど
いずれ、なにか もっと 別のかたちで
かつてお世話になったひとたちに
お返しができればいいな
どうしたら、それができるかな と
そんなことごとを ばくぜんと
心におもいうかべながら
いつか、まどろみのなかに
眠りについている――
そんな、毎日


MODEL: Wang Ying
Stylist: Zhao Qing
Hair & Make up: Noriko Sasaki