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 長く広告写真や女性ポートレイトの世界で活躍され、最近も和紙などに乳剤を塗って写真をプリントされた作品を発表されたりとご活躍の藤井秀樹先生。40年近くにわたる先生の「写真人生」を熱く語っていただきます。

編集部(以下 編):今日は、先生のオリジナリティが存分に発揮されているFグラについてお願い致します。
藤井秀樹先生(以下 藤):取材でフランスへ行った時のことです。時間があったので、ルーブルなど、美術館を見て歩きました。ちょうどピカソも展示されていたのですが、それを見た時に、大変ショックを受けました。それは、ダンボールみたいな紙にデッサンしたような作品で、ものすごく新鮮に見えました。そこで、考えたのです。なぜ、写真は印画紙にしか焼けないのだろうと。絵描きさんは、キャンバスだけではなくて、木であるとか、ダンボールであるとか、様々な素材を表現媒体として使っているのに対し、写真はフィルムと印画紙に固定されてしまっている。もっと自由に素材を選ぶことは出来ないだろうかと考えました。
 その後、あれは、ガソリンスタンドで給油している時だったと思います。たまたま同行していた京セラの工場に勤めている人に、セラミックの製法についてお伺いしました。特殊な液体を素材に塗って、800度という高温で焼くことによって制作されるそうです。もとは液体なんですね。そこで、写真も、液体乳剤を作れば自分の好きな素材に塗って任意に色々出来るんだ、ということを思いつきました。
 それから、古い文献などを調べ、自分で薬品を調合してみたのですが、なかなかうまくいきませんでした。それで、某印画紙メーカーに共同研究を申し込んだのですが、残念ながら断られてしまいました。そこで、今度は業界の偉い方と一緒にコニカへ行きました。そうしたら、面白いアイディアなので、うちで研究してみましょう、と、引き受けて下さいました。
 様々な試行錯誤の結果、2、3年で納得のいく液体乳剤が出来、Fグラがスタートしました。
 暗室ワークのうまい助手さんの協力を受けて、ベニヤ板に焼いたり、和紙に焼いたり、様々な物に焼きました。コニカの液体乳剤は市販していないのですが、技術部の方が「藤井さんの使う分くらいは協力しますよ」と、10年近く研究する量を無償で供給していただけました。その後、富士フイルムが「売れる商品ではありませんが、文化ですから。学生の研究にも」ということで、アートエマルジョンという名で液体乳剤を商品化しました。去年、ベルギーの学校に講師として呼ばれた際、生徒たちにこれを紹介した所、非常に面白い作品を多く制作しました。
編:今回寄せていただいた先生の作品を解説いただけますでしょうか。
藤:一点目は、モノクロ写真を壁紙のような素材に焼き付け、パステルで彩色したもので、Fグラの初期の作品です。カラーでもモノクロでもない、絵のような写真を作るというのがFグラの最初の発想でした。中でもこれでうまくいっていて、気に入っている作品の一つです。二点目の作品は、コンピュータを使って、越前の海、四季の花、太陽を組み合わせた作品で、屏風に焼いてあります。
編:デジタルとアナログの見事な融合ですね。
藤:デジタルの世界になって、逆に、一番大事な手のぬくもりというか、ハンドメイドというものの価値も見直されています。テイクとメイク。撮るだけではなくて、仕上げていくということにこだわっていきたいと考えています。和紙や大理石など、様々なものに焼けるノウハウも蓄積することが出来ました。今、金箔や銀箔に焼くことを試みているのですが、これも出来るようになりました。和紙に焼いた写真展で、「わびさびの世界はこれでいいけれど、みやびの世界はどうでしょう」と言われました。みやびの世界はなんだろう、と考え、今、新しい作品の制作を進めている所です。
編:ありがとうございました。次号は、いよいよ最終回。先生の今後の展開をお聞かせ願えればと考えています。