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 長く広告写真や女性ポートレイトの世界で活躍され、最近も和紙などに乳剤を塗って写真をプリントされた作品を発表されたりとご活躍の藤井秀樹先生。40年近くにわたる先生の「写真人生」を熱く語っていただきます。

編集部(以下 編):今日は、前回お話しにありました「日本的」ということについてお願い致します。
藤井秀樹先生(以下 藤):写真の世界というのは、世界中にマーケットがあります。日本だけのマーケットでアイディアを発想しないで、世界に通用する写真というのは何だろう、と考えることは重要です。若い人達の中には、外国へ行けば写真が撮れると考えている人がいるようですが、そうではなくて、自分の国の伝統的な、文化、歴史、そういうものを知らないで外国へ行っても、それは外国の物まねになってしまいます。自分の国のアイデンティティを充分に勉強して、オリジナリティを持っていないと、海外では認められません。ニューヨークでニューヨークの真似をして写真を撮ってもかなわないし、パリへ行ってもそうです。前の号でも言いましたが、日本の伝統的な文化、歴史、芸術などを土台として、オリジナリティを発揮することが求められます。
 例えば、「歌舞伎」を例にとれば、なぜ白塗りをしているのか。あれは、昔は「火」という、赤い光で照明をしていたことから生まれてきたメークです。最近はストロボが主流になりつつありますが、昔のハリウッド映画の照明はやはり美しいですし、写真が光で写るということであれば、光の研究は重要でしょう。日本には日本の光があるわけで、特にネイチャーフォトに言えることですが、四季のある日本の光と、ハワイなどの常夏の光とは違います。自分の住んでいる国の気候、風土でライティングを研究していくことが必要だと思います。
 話を麻生恒二さんに戻しますが、当時、麻生恒二さんは、東京にいくつもの美容室を持ち、一番ノッて仕事をしていた方でした。その麻生恒二さんから、自分のヘアーの写真集を作りたいという依頼を受け、撮った写真が今回掲載されている写真です。物事がだんだんインスタントになってきていても、ヘアーメイクというのは、とても難しい仕事です。ヘアーアートを作るということは、最近はあまり見掛けなくなりましたが、掲載されている作品は、麻生恒二さんのヘアーアートというものを、新美容さんから出版した時の作品です。
 最近はデジタルカメラが発達して、デジタルか、アナログかなどという議論もなされていますが、デジタルはあくまで道具であって、撮るのは人間の心であってほしいですね。学生達には、「自分が感動して撮れ。何のイメージも持たずに撮るな」と教えていますが、たとえ手段が銀塩写真からデジタルへ変わっていったとしても、根底にあるものは人間の心であり、感動であり、そういうものがカメラを使って表現されていくという基本的な所を理解していないと、世界のマーケットにアピール出来る写真は生まれてこないでしょう。デジタルを使えばいい写真が撮れるとか、高いカメラを使ったらいい写真が撮れる訳ではないし、自分に人間としての感性がないと撮れないですね。昨今は、文明が進み、便利にはなっているけれど、それに毒されてしまって、写るだけの写真が多いように感じます。
 インターネットなど、ネットワークを通じて世界のコミュニケーションが進んでいますが、それによって、同じ様な写真が溢れてもつまらないし、やはり、それぞれの国の文化とか、人間性が表現されていた方が面白いでしょう。機械が撮るわけではなく、人間が撮るんだ、ということを基本に置いて作画していかなければいけないと思います。
編:ありがとうございました。次号は、先生のオリジナリティが存分に発揮されているFグラについてよろしくお願い致します。
<編集部・注>掲載作品は、どちらもアナログ手法のみで制作されています。