まだわからないF5のAF性能
ニコンF4で一番間題となったのはAFのスピードである。動くものに合わない。測距精度が高いため、下手な人が使うとAFの見かけ上の性能が極端に落ちるのだ。
ここでのポイントは、下手な人ほどAF性能が落ちるということである。まず測距ポイントが小さく、しかも精度が高いため、基本的にカメラぶれを起こしているとピントが合わない。下手な人は絶えずカメラが微妙に揺れているため(手ブレ)、高精度のピントを求めるカメラボディーは正確なピントを判断しにくくなるのだ。
このことは、ニコンF4を三脚に据え、ピントが合いやすいものに向けてからAFを作動させると、結構早く合うので理解できるはずだ。まあニコンF4はプロのためのカメラだから、下手な人が使えば性能が落ちるのは仕方のないこと。基本は上手な人が使うためのカメラだからだ。
しかし、実際この辺の部分はキヤノンEOS-1はよくできている。使っている人が下手でも、だいたい合うようになっているのだ。これは合焦をどこで判断するかという、カメラ内蔵のコンピューターの設計上の問題だから、キヤノンのほうがコンピューター技師に優秀な人材を揃えているということになる。AFを活用するスポーツ系のカメラマンが一斉にキヤノンに乗り換えたのも無理はない話だ。
ニコンが最高級機は10年サイクルという原則を崩してまでもニコンF5を発表した真意はスポーツ系カメラマン対策にある。プロカメラマンの実数は報道系カメラマンよりも、それ以外のプロのほうがはるかに多いが、テレビのスポーツ中継を見ていると、どうしても白いレンズが目立つ。
実際は白い超望遠レンズの合間に黒いレンズもいるのだが、白が目立つから黒いレンズは見えなくなってしまう。スポーツカメラマンの全員がキヤノンを使っているように見えてしまうのだ。ニコンも焦るはずだ。
でっ、実際間題ニコンF5のAF性能はどうなのかというと、確かに速くなっている気がする。気がするという表現になってしまうのは、確かに速いと思うのだが、キヤノンの静かなAFと比べると、ガラガラ音がするニコンのAFはどうしても遅く感じてしまうのだ。
この作動音の問題はAFのイメージの中できわめて重要な要素を含んでいる。キヤノンの超音波モーター内蔵レンズを使っていると、AFの作動音がしないから、ピントが合った瞬間だけが感じられるから、とても速いような気がする。
ところがニコンのレンズはガラガラ音がするから、AFが作動開始してから合うまでの時間がモロに実感できる。意識の中でピントがあった瞬間だけしか感じられないキヤノンと、最初から最後まで作動を実感できるニコンでは、おのずと差がついてしまうのだ。
まあ、ニコンでもその辺のことはわかっているらしく、超音波モーター内蔵のレンズも発売が予定されている。とりあえずは300ミリや600ミリといった超望遠レンズだが、いずれは28〜80ミリや80〜200ミリの高級タイプ(F2.8クラス)に超音波タイプが出てくるだろう。メカ的には普通のマブチモーターでも何とかなるはずだが、音の問題。体感的な問題をクリアするためには、超音波モーター駆動のAFが絶対必要なのだ。
結局、ニコンF5のAF性能を正確に判断するのは、超音波モーター内蔵のレンズが出てからということになるだろう。キヤノンEOS-1Nもチューニングマシンの開発が進められているらしいが、対決が楽しみだ。
ベテランのためのマルチAF
ニコンF5の測距エリアはセンターを中心に十字型に配置された5点測距式である。ミノルタα-707siの方式にさらに一点加えたといってもいい。重要なのは横3点(横位置に構えた場合)が十字測距方式であること。
今までのマルチAFの欠点は中央のセンサーと周辺のセンサーとの感度がことなることだった。もちろん基本的に、周辺部の方が設計上センサーに無理がかかるのでどうしても感度が落ちぎみだが、中央のみが十字センサーで、周辺は通常のセンサー(EOS-1N)では中央のセンサーで測距するのと周辺で行うのではどうしても差がある。F5の場合使用頻度の高い左右のセンサーが十字化されているので実用性の高いマルチAFである。
マルチAFはもともと、AFロックがうまくできない人のために開発された(測距ポイントの自動選択)ものだが、ユーザーをそこまで甘やかすことはない。AFロックの操作もできないなら、どんなに写真をやっていても上達の望みはない。高級なカメラを使う資格(買うのは自由だが)はないのだ。
もちろんコンパクトカメラクラスなら、シロートのためのマルチAFという考え方もなくはないが、上級者向きのカメラに自動選択モードは必要ない。完壁に撮影者の意思どおりに選択してくれるなら話しは別だが、そうならない以上は必要ないのだ。
むしろマルチAFの価値は、撮影者の意思で個別選択できること。測距エリアの選択のしやすさがポイントなのだ。ニコンF5の測距エリア選択は、背面につけられた十字キー操作で行う。ファミコンの操作キーと同じようなもので、使いたい方向にキーを押すと測距エリアが変わる。
最初戸惑うのはセンターのエリアに戻すときでどの方向に押せばいいのかわからない。慣れてみれば簡単なことだが、現在設定されているエリアと反対方向に十字キーを操作すればいい。
ただそのことに気づくまで一瞬の空白があるのだ。これはサンダーだけでなく、最初に触ったとき戸惑う人が多いようだ。センターに戻すためのリセットボタンみたいなものがあればより便利だと思う。十字キーの操作には慣れが必要だろうが、自分が使いたいエリアを確実に使えるのは便利だ。
測距エリアが設定されている位置には好みの問題があって、左右のエリア(長辺方向)がもっと間隔があったほうが便利なような気がするが、いいだしたら切りがない問題かもしれない。
動体撮影を考えたマルチAF
サンダー平山はまだ動体に対するテストを行っていないので確実なことはいえないが、ニコンF5のマルチAFは、動体撮影に対応ずるAFモードを備えている。一見マルチAFの測距エリア自動選択に似ているが、ニコンF5にはそんな子供だましみたいなモードはついていない。
ニコンのダイナミックAFモードは、まず任意のAFエリアを選択する。動体撮影で被写体をスムーズに追い切れない場合でも、他の測距エリアに主要被写体が引っかかっていれば、自動的にエリアが切り変わって被写体に対するピントを追い続けるというモードである。
つまり、あくまでも撮影者の意思を尊重した撮影モードであって、撮影者を無視してカメラが勝手に被写体を選ぶモードではないのだ。そのメカニズムは、撮影者が選んだ測距エリアで計った撮影距離をもとにして、そのエリアから被写体がはずれても、他のエリアが主要被写体にもっとも近い距離を選んで被写体を追い続けるモードだ。
サンダーはもともと動き回る被写体を撮ることはほとんどない人だが、理論的にはプロらしいモードである。
高速モータードライブ
ニコンF5の内蔵モータードライブは、最高で秒8コマの連写ができる。いままでは特別仕様の超高速モータードライブ機とほとんど変わらない性能である。
世の中にはそんな高性能はいらないとか、意味がないとかいう人もいるが、否定する理由はまったくない。超高級機の性能が必要ないなら安いカメラを買えばいいだけであって、高級機を語る資格はないのだ。
もちろんサンダー平山にとっても、秒8コマの性能は必要ない。そんな連写をして撮影することはないからだ。秒8コマの世界は、高速連写モードにセットすると、よほど慎重にシャッターボタンを押さないと一コマだけで終わらすことができない。普通にシャッターボタンを押すと、必ず2、3コマ撮れてしまうのだ。
しかしシングル巻き上げモードなら、シャッシャッと気持ちよく巻き上がってくれる。瞬時に巻上げが完了し、次の撮影準備ができることは、だらだら巻き上げる安いカメラに比べれば、とってもいい。撮影に対する集中力を高めてくれるのだ。
おまけに巻き戻しも最高で36枚撮りが4秒で巻き戻せるから、5点マルチAFと大型ストロボを組み合わせてポートレートを撮ると、場合によってはフィルム1本を約1分で撮り終わることもあった。早く撮ることがいいとはかぎらないが、ニコンF5を使うと、より集中力が高まり快調に撮影できる。それもいいカメラの一つの条件だと思う。
将来性があるRGB測光
カメラの内蔵露出計は、マルチパターン測光、中央部重点測光、スポット測光の3つのモードが標準的に装備されるようになって、ほぼ完成の域に達したと思われていた。ところがニコンF5では被写体の色迄を考慮するRGB測光が採用された。サンダー平山にとって一番期待出来る部分である。
RGB測光を実現するために、露出の測光システムにはビデオカメラの撮像素子として使われているCCDセンサーが採用されている。このセンサーは1005の画素を持ち、大ざっばに言えぱ1005分割のマルチパターン測光だといってもいい。
RGB測光が何なのかというと、単純にいえばCCDを使うことによって被写体の色や光源の種類を判断し、露出データーの一つに使用ということである。
被写体の色が判断出来ることにより、披写体の反射率をデーターとして活かせることになる。今までのカメラ内蔵露出計の欠点は、被写体の反射率がわからないために、露出補正が必要なことであった。完壁なRGB測光が実現すれば、無敵の露出計ができあがる事は間違いない。
テスト機がまだサンプル品であること。撮影データーの量がまだまだ足りないことなどの理由があって、正確に判断することはできないが、RGB測光の効果は確かにあるようだ。確実に効果がみられたのが蛍光灯もしくはタングステンで照明された室内だ。一般に人工照明下では露出を多目(半段から1段)にしなければならないが良好な結果が得られた。とくに露出不足になりやすい白い洋服などもきちんと補正されていた。
ただしタングステンと自然光がミックスされた条件では、ベストとはいえなかった。ややイジワルなテストだが、ミックス光まできちんと識別することはまだできないようだ。単純に黄色い花畑や緑の草原、青空というように、画面全体が同じ色で統一されていれば効果は高いようだ。しかし、一般的にはいろいろな色が入り交じっているので判断が難しいところだ。
RGB測光の回路を煮詰めていけば、かなり効果の高い測光システムになることは確実である。しかしそのためには回路の小型化など多くの問題があるのかもしれない。現代ではビデオカメラ並みの大きさが必要なのかもしれない。
操作性の問題
ニコンF5からはついにシャッターダイヤルはなくなった。基本的にダイヤルが好きなサンダーとしては寂しいところだが、1/3ステップのシャッター速度や30分までの長時間露出(カスタムファンクション)を実現するためには液晶表示は必要なのだ。
また、ニコンF5では実質的に旧タイプのレンズは使えなくなった。レンズマウントが電気的連動だけになり、ニコンF4にあったAF以前のレンズのための機械的連動機構がなくなったので、絞り優先AEとマニュアル露出以外は使えない。露出計も絞り優先AEとスポット測光のみになるので、F4のように旧タイプのレンズでもAF以外は使えるという便利さはなくなった。
まあF4と操作系を変えたことに不満がある人もいるだろうが、しばらくはF4も販売され続けるのでマニュアル指向の撮影にはF4、オート機能が重視される場合はF5というように使い分ければいいだろう。