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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

デジタル写真術
 時代遅れだとあきれられ不思議がられるのだが、私、ケイタイを持ち歩かないことにしている。

 何年か前にケイタイで写真を送ることを実験した。実際の経験なしに、新聞社では撮影した写真を、こういう方法で本社まで送っているなどと教えられないと思って試したのだ。都内ではPHSが具合が良く、その便利さに大変感心したのだが、ひととおりの実験がすんでしまうと、ケイタイを使って写真を送らなければいけないような仕事をしているわけではないから、すぐケイタイを持ち歩くことをやめてしまった。

 先生、ケイタイが無くては不便でしょうとよく言われるのだが、あまり不自由を感じたことはない。所かまわず呼び出される不愉快さに較べればケイタイが無くて感じる不便さなどたいしたことではない。

 だからケイタイの普及には驚かされる。しかも話すだけでなく写真も届いてしまうのだから驚きだなんて言ってられない。

 昨年、何月の集計か不明だが、カメラつきケイタイの普及状況は1300万台だそうだ。携帯電話の契約台数は7300万台だそうだから全体の20%までは届いていないがたいしたものだ。

 J−フォンが写メールを発売したのが2000年の暮れだからほぼ2年間で1000万台を超えてしまったことになる。写メールが740万台、ドコモが320万台、KDDIが190万台だそうだ。年明けの現在はもっと増えているだろう。

 どんな世代がカメラつきケイタイを買うのか、これは当然のことだがもっとも若い世代だ。10年以上前になるが中学生、高校生のカメラ初体験は修学旅行のときで、80パーセント以上は使い捨てカメラ=レンズつきフィルムだと言われたことがあった。

 つまり80パーセント以上が普通のカメラを使った経験がないということだった。そのときから時代は変わっているが、新しくカメラつきケイタイを買うのが、中学生から20台前半だとすると、やはり80パーセントくらいはカメラ初めての層になるのではないかと思う。

 先月、自分の写真を撮る層が出てきて、写真は変わると言ったが、この新しい世代層はカメラはこういうものだとか、写真はこうだとかいうのとはちがって、まったく新しい接し方で写真にふれている。自分を撮る道具と言うことかも知れない。

 ついこの間まで、写真はネガカラーフィルムで撮影して、撮り終わったフィルムをラボに出し。フィルム現像と同時プリントでサービスサイズに引き伸ばしをするというのがきまりのような方法だった。

 カメラつきケイタイ世代はそんな経験がほとんどないのかもしれない。

 昨年の暮れ朝日新聞社は社告を出した。『携帯の写真メール募集』だ。社告の内容は『ケイタイ・プチ写真館』と題してカメラ付き携帯電話からの写真メールを募集します。年末年始のマイニュースをテーマにメッセージを付けて送ってください。優秀作品を選んで表彰。2月の朝日新聞紙上に掲載します。と言うものだ。これは朝日のホームページにも広告が出ている。

 簡単に言えばカメラ付き携帯で撮った写真のコンテストである。少し先取りのし過ぎかなと私などは思うのだが、友人たちに言わせると、そんなことを考えているのがすでに遅れているのだそうだ。

 でも、このコンテストに応募するのは先端世代でカメラ付き携帯で楽しみ遊んでいる若者たちではなくて、写真をやっていた世代で新し好きでカメラ付き携帯を持っている連中になりそうな気がする。

 知り合いの高校生たちは、この広告に興味が無いようだった。カメラ付き携帯で遊ぶ世代は、写真コンテストがどうのこうのと言うのにはまったく関係がないのかもしれない。

 この高校生たちに、自分を撮るのにはカメラを左手でもつんだってね、と感心したら、そうとは限らない。カメラを逆さにもって親指でシャッターを押すというのと、カメラを裏側から持てば左手で撮る必要はないと教えてくれた。

 カメラ付き携帯といえばJ−フォンの写メールからはじまったわけだが、はじめのころはあんな幽霊みたいな画像送ってもらったって、どうしようもないよと言っていたのがあっという間に画質が良くなって、画質のことなど使っている当事者たちは何も言わない。

 使っている人たちに不満を聞いてみると、電池がすぐ無くなってしまうことが欠点だという。画素数が10万画素から30万画素になれば電気を食うのは当然だろう。しかしその不満もあまり問題にはならないようだ。

 Jフォンのカタログを見ると各メーカーのいろいろな機種が様々な付加価値を付けて競争している。あるものは大画面、あるものは画質の良さ、フラッシュ付きだってあるし、どれを選んで良いか迷う。迷ってしまうからテレビのかっこうよいコマーシャルが効いてくるのだろう。

 カメラ付きケイタイ愛用者が、どれだけ画質の良さなど必要としているのかわからないが、写真がカメラ付きケイタイでとんでもない方向に(これはいいことであるかも知れないし、逆に悪いことであるのかも知れないが)向かっていくだろうことは想像できる。

 今年になってからのケイタイの新製品には2焦点システムとか、カメラ付きケイタイの画像を店頭ですぐ印刷するサービスを三菱電機がはじめるとか、この関連の新製品は次々と発表されている。

 カメラ付きケイタイ世代は完全にカメラから離れてしまったか、成人式の日渋谷公会堂に集まる新成人たちを見に行ったら、半分くらいの若者がコンパクトカメラや使い捨てカメラを持ってきていた。

 カメラを持っている何人かに聴いてみたら、たくさんの記念写真はカメラでなければ駄目だそうだ。それに自分で手を伸ばしてカメラ付きケイタイで撮影しようと思うと、頑張っても3人しか入らないからと言っていた。

 コンパクトカメラは他人に渡して撮ってもらうが、ケイタイは自分の実から離してはいけないもののようだ。

 カメラ付きケイタイ愛用者以外の写真愛好家たちがこれになじんでいくか、そっぽを向くのかこの辺がわからない。新年になって澁谷の量販店のケイタイ売り場で見ていたら、この売り場に来る人は年齢に関係なくほとんどの人がカメラ付きに替えているから、今年中にはカメラ付きケイタイの利用者が3000万を超えるかも知れない。