TopMenu


吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

航空撮影 2
 最近は航空写真というよりは空中撮影、空中写真と言うようだ。国土地理院が空中写真と言っているので空中写真と言うのが一般的になってきたのだろう。空中写真閲覧サービスをやっている国土地理院は、空中写真とは、飛行中の航空機などから航空カメラにより地表面を撮影した写真のことを言うと定義している。

 さてこの航空機などだが、小型飛行機やヘリコプターはもちろん、グライダー、ライトプレーン、パラグライダー、モーターパラ、ハンググライダー、モーターハング、バルーン(熱気球)無人グライダーによるカメラの遠隔操作、さらにカイト(凧)にカメラを取りつけて撮るものまで含まれる。衛星による撮影だって空中写真だ。空気のないところは空とは言わないのではという人もいるが、空間ということで衛星写真も空中写真の中に入れるようだ。

 空中写真だからと言って、普通の写真と変わったことはない。違いは一般の写真では撮影するときカメラを固定して撮る。動きの速いものたとえばスポーツの撮影でもボールの動きなどとても速いが、カメラの位置はほぼ固定している。空中写真の場合はほとんどの場合カメラが動いている。地表でも、ものでも、人でも、対象はあまり動かないがカメラが動いているのだ。

 撮影していると、あっという間に眼前の状況が変わるから、瞬間的にフレーミングしてシャッターを切る。チャンスを逃さないことだ。一瞬をねらうと言っても相手が動くのとカメラの位置が動くのでは、撮影に違いが出てくる。

 ヘリコプターの場合はホバリングで空中に止まることが出来るから(と言っても静止しているわけではない)シャッターチャンスに恵まれ撮りやすいが、振動が激しくてブレに悩まされる。対象が動くのと撮影する人が移動するのでは、動くが違うが、どちらも速いシャッタースピードで撮影することが必要になる。一般の写真ではブレが写真の表現方法になることもあるが、空中写真ではほとんどの場合ブレ、ボケは禁物である。

 飛行機、ヘリコプターの場合はそのものの速度のほかにエンジンや機体の振動が加わる。小型航空機はエンジンの振動がかなりきつい。ヘリコプターはエンジンの振動にプラスして回転翼の振動が強い。上空では250分の1秒以上のシャッターを切ることもあるがたいていは500分の1秒のシャッタースピードを使うことが多い。

 夕方の撮影などで、セスナ機のエンジンを切り滑空状態でスローシャッター撮影する方法もあるが、通常では500分の1秒シャッターの使用が多かった。その500分の1もレンズシャッターではなくフォーカルのシャッターだ。レンズシャッターは500分の1と言っても計測してもらうと、ほとんどが350分の1秒くらいしかなかった。

 4×5判の大型カメラで撮影するときはスピグラ(スピードグラフィック)を使うことが多かったが、レンズシャッターを使ったことはなかった。スピグラにはレンズシャッターとフォーカルシャッターがついているずいぶんと贅沢なカメラだが、このフォーカルシャッターは筆者の場合は望遠レンズでの撮影と航空撮影以外に使ったことがない。

 スピグラを使用するとき通常のモノクロ撮影では、12枚撮りか16枚撮りのパックフィルムを使ったが、航空撮影ではカットフィルムを使った。カットフィルムはフィルムベースが厚く焦点面の平面保持がよく、フィルム面の浮き上がりなどによるピンぼけがなかったから、安心して絞りをあけて撮ることが出来た。

 カットホルダーは1個で裏表2面2枚のフィルムを入れる。筆者の場合1回の飛行で30枚くらいは撮影したから、大型カメラを使うときはカットホルダー24個2ダースをフィルム携帯用の鞄の入れて持ち歩いた。それでも万一フィルムが無くなったときの用意に入れ替えのためフィルム交換用の暗袋とフィルムを持って撮影に出かけた。

 スピグラ127ミリレンズ付きの使用が一番多かったが、この広角レンズの描写が鼻につきだして、望遠レンズ使用を考えた。スピグラに望遠をつけて撮ってみたが思うような結果が出なかった、そこで考えたのはリンホフテヒニカ4×5の長焦点レンズを使用することだった。

 私がいた出版写真部にはリンホフテヒニカ4×5は1台しかなかったが、あまり使われていなかったのでこれにシュナイダーの240ミリレンズをつけて撮り始めた。この画角が気に入って航空撮影というと、スピグラとリンホフの2 台のカメラを持っていって撮影した。大型カメラ2台を狭い機内に持ち込むのは大変だったが、この方式をかなり長い期間続けた記憶がある。

 リンホフに360ミリレンズをつけて撮ったこともあるが、これは失敗だった。焦点距離が長いので当然、蛇腹が長く伸びる。注意をしていても飛行機のあけた窓からカメラが外に出てしまうことがある。蛇腹が伸びたカメラが風にあふられて撮影などとても出来ない状態になってしまった。

 大型カメラの蛇腹に風は大敵で、新聞写真部ではスピグラを航空撮影用に改造して使っていた。改造はレンズを保持する前板を短く切り蛇腹の周りを金属板で囲って、蛇腹に風が当たらないようにしてあった。この改造カメラは羽田の格納庫の事務所に置いてあった。羽田にはスピグラ以前に使ったいたパルモス改造航空カメラも置いてあった。

 空気の抵抗といえば蛇腹もそうだが、レンズフードなども外して撮影することが必要だ。フードをつけることで思わぬ抵抗が出てブレるし、ときにはフードを飛ばされてしまうことがある。

 何十年も前のことだが、飛行機に乗るときパイロットからレンズにフードは外してくれと注文されたことがある。なんでこんなことを年を押すのかと思ったら、新聞写真部の某カメラマンが撮影中、フィルター付きレンズフードを飛ばされてしまった。

 双発機で撮影窓がプロペラより前にあった。飛ばされたレンズフードがプロペラにあたった。カメラマン氏は「フードは高いものではないからたいしたことはありません」と言って平然としていたが、着陸して点検すると、プロペラがわずかだが損傷して、数百万円の修理代がかかったと言う事故があった直後だった。

 これを聞いてから、レンズにフードが組み込まれているレンズを除いてレンズフードをつけて航空写真を撮影したことはない。小型飛行機ではあまり地上に物を落としたと言う話は聞かないが、ヘリコプターは気をつけなければいけない、撮影のためにドアを外して飛ぶことが出来るヘリが活躍した時代、フィルムを入れ替えていて撮影したフィルムを機外に落としたとか、レンズを落としたなどの話を何度も聞いた。

 これも、もう何十年も前の話だが、ヘリで撮影するとき安全ベルトを締めるのが決まりなのだが、慣れてしまうと乗り出して撮影するためにベルトを外して撮影するのが当たり前になっていた。某社のカメラマンが撮影のためベルトをはずして撮影していて機体が揺れて大きく傾き地上に落ち殉職するという事故が起きた。そのあとヘリもバランスを失って不時着した。なんとも痛ましい事故であった。

写真説明
(1)アサヒグラフ掲載・イタリア風船旅行 ベネチア・サンマルコ広場
(2)スピードグラフィック改造航空カメラ このカメラは昭和36年に朝日式航空用改造スピードグラフィックと命名された。
(3)パルモス改造航空カメラ このカメラは記録によると昭和4年に購入。その後改造されて戦争中も航空撮影につかわれ、戦後航空再開後しばらく活躍した。手札判フィルム使用。