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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

ピンホール つづき2
○暮らしの手帖版 簡単ピンホール
 {暮らしの手帖}の新聞広告を見ていて『ピンホール写真を撮ってみよう』と言う記事があるのに気がついた。早速、下北沢の駅前書店に出かけて買ってきた。何十年も前、昭和30年代が多分{暮らしの手帖}の全盛時代だったのだろう。あのころは家人が定期購読していたから結構面白がっていろいろな記事を読んでいた。

 ご存じないかたが多いだろうが{暮らしの手帖}には花森安治さんという名物編集長がいた。この雑誌には広告ページがなく、新製品(話題製品・電気製品から衣料、食料品まで)を取り上げて、大メーカーの製品でも歯に衣を着せぬ製品評価を下して評判だった。

 家人がいつの間にか飽きて購読を止めてしまい。最近は手にとったことがなかった。だからお目にかかるのは20年ぶりくらいだ。買ってきた暮らしの手帖第6号10月11月号にはかっての製品の試用記事や批評は一つも載っていなくて、当たり障りのない気が抜けた記事ばかりが目立つた。

 気になったのは、何故この雑誌が、「ピンホールで写真を撮ってみよう」などという記事をに載せるのかがわからないことだ。読者層は家人の友人などが愛読者だから、多分比較的、年齢層の高い女性だろう。編集者の懐古趣味がこのハウツウ記事を作ったとしか思えない。

 暮らしの手帖のピンホール写真は、カメラとレンズの代わりをするピンホールの作り方は簡単で面白いが、フィルムの代わりをする感光材料に印画紙をつかう方法だから、この記事を読んでいると簡単のように思われるのだが、これを実行するのは大変だ。

 印画紙を選ぶことも大変だが、現像する道具、現像液、定着液など、それに暗室も必要とするから厄介なことで、この記事を読んでピンホール写真をやる人が何人でてくるのか首を傾げてしまう。

 ピンホールを作る方法、使用する材料などについてはなかなか興味深い。この制作記事ではピンホールをアルミの金属板でつくると書いている。アルミ板は飲料などのアルミ缶を伸ばして平面にする。アルミ缶は厚さが薄く適当だ。

○ピンホールの開け方
 正方形に切ったアルミ板に対角線を描き、対角線の交差する所の穴を開ける。アルミ板を木の板の上などに置き、太さ0.5ミリくらいの縫い針を真っ直ぐに立て、金槌でたたいて0.3ミリくらいの穴を開ける。

 虫眼鏡などで正確に丸く穴が開けられたかを確かめながら形と大きさを整える。アルミ板を裏返して紙ヤスリで凹凸をならし平面にする。黒色の油性ペンを塗って仕上げる。塗り終わったら虫眼鏡で丸く穴が空いているか、金属片などが付着していないか、針を穴に当てて穴が円いかどうかを確かめる。

 この方法はピンホールを造るのには一番簡単な方法である。アルミ板あるいは薄い銅板にドリルで穴を開けるのが普通だが、この方法ならば金属板を買いに行く手間も、ドリルを買いに行く必要もない。普通は0.1ミリか0.2ミリくらいの厚さの銅板を東急ハンズなどで買ってきて作るのだがアルミ板は堅さが同じくらいだから、手始めにはこの方法が良い。

 ピンホールの穴は正円に近いほど写る画像はきれいになる。カメラ店でピンホール写真用の穴あき銅板の既製品を買ってきたという人からピンホール板を見せてもらった。顕微鏡でのぞいてみたら円の縁がギザギザで、とても円とは言えないような穴が空いていた。

 これならば縫い針をぐるぐる回して作ったピンホールのほうが写りは良い。ドリルで開けると0.2ミリ程度のピンホールならば自分で開けられる。最近はレーザーで0.02ミリくらいのピンホールも正確に開けられるそうだ。

 ピンホール写真できれいな画像を写したいと思ったらきれいにまん丸い穴が必要だ。やってみたがどうも写した写真がよくないという場合は、まずピンホールが正円かどうかを疑って見ることだ。顕微鏡でなくてもフィルムを見る4〜8倍のルーペで見てもよくわかる。

 暮らしの手帖のピンホールカメラは紅茶やお菓子の空き缶などを利用してつくることになっている。四角いカンのの並行した対面を利用してカメラにする。ピンホールを取り付ける面の反対面に印画紙を固定して写すことになる。

○印画紙をフィルムの代わりに使う
 印画紙がフィルムの代わりの感光材料になる。ピンホールと印画紙との距離は近くても遠くても自由だ。これがピンホールカメラの特徴で、かなりの広角でも周辺光量の問題さえなければ問題ない。

 空き缶はカメラだから光が入ってはいけない。暗室の中で印画紙をセットするのが面倒だが、これだけはしっかりと暗くして光の無いところでやらなければいけない。印画紙だから暗室があれば印画紙現像用の赤いランプをつけて作業が出来る。印画紙は御存知のように赤い光線には感じない。

○ピンホール写真の露出の決め方
 後は露出時間だ、露出時間は感光材料の感度がわかり、絞りのF値がわかれば簡単なことである。針の直径が0.5ミリとするとレンズとおなじように、針穴から印画紙までの距離が焦点距離になる。

 F値は焦点距離÷レンズ絞りの直径だから、たとえば針穴からから印画紙まで10センチメートルんばらば100÷0.5でF値は200ということになる。

絞りの数列は、F8、11、16、22、32、45、64、90、128、181、256、362、512となり、この数列では露出の数値が一つごとに2倍になるから、計算したF値に近いところの数値で概算すると露出の目安の数値が求められる。

 200だからF181を基準に考える。露出計でF11、125分の1秒という数値が示されたときにはF11からF181までの露出の段数は8となる。2の8乗=512に露出計に出ている125分の1秒を掛けると512×125分の1=4(小数点以下切り捨て)となる。

 これは4秒の露出をすればいいことになる。しかし相反則不軌というのがあって感光材料は露出時間が極端に長くなったり短くなったりすると数列のよって倍々になる露出時間が倍数どうりにはいかず、露出を長くしなければいけないという法則があるので大体の露出の目安を6秒から倍8秒くらいにするとよい。

 ここで出てきた露出計のF11、125分の1秒という露出時間は印画紙の感度をISO20から30としている。いずれにしても、スローシャッターだからカメラが動かないように工夫をする。

 こうして写した画像は暗室で印画紙を取り出し、現像しなければいけない。現像した画像は定着し、乾燥する。これで出来上がった印画紙にはネガの画像が現れているから、これをポジにかえなければいけない。どうするかというと出来上がった写真の印画紙にもう1枚の印画紙の幕面を合わせ画像の写っている印画紙の上から光線を当てる。これをもう1度現像して初めて写真が出来上がることになる。

 確かにしっかりと手間がかかり、この過程も趣味の楽しさ、面白いと考えるならば、やってられるが、まあー大変な手数ですね。 モノクロ写真の現像引き伸ばしをやったことがある人以外にはあまり勧められない作業だ。

○もっと簡単なピンホールカメラ
 この手間を考えてみると一番簡単なのは、カメラのボディキャップに穴を開ける方法である。レンズキャップはほとんどがプラスチック製で比較的柔らかい素材で作られているから、縫い針を焼いてキャップの真ん中部分に当てればすぐきれいな穴があく。少し大きいピンホールだがこれをカメラに取り付けて撮る方法がピンホール写真としては一番簡単な方法だろう。

 フィルムはモノクロでも、ネガカラーフィルムでも、リバーサルカラーフィルムでも、どれでも結構である。

 実際に撮影してみると、リバーサルカラーフィルムつまりポジで撮るのが結果がすぐわかり面白い。

 この場合の露出時間は、ピンホールからフィルム面までの距離が5センチくらいだから0.5ミリのピンホールでF値はF100くらい、これから換算すればISO400のフィルムを使うと晴天の順光でF11で500分の1くらいが標準露出時間になりこれから換算して相反則不軌を考慮に入れても1秒くらいの露出になる。

 興味がおありなら是非この方法でやってみてください。

 レンズキャップに穴を開けての撮影に納得したら、銅版やアルミ板に開けたピンホールを。キャップに1センチくらいの穴を開けたものに貼り付けて撮ると、描写が精密になってまた、楽しみが増えてくる。

 フィルターメーカー・ケンコーからも、いろいろな一眼レフカメラで使えるピンホールのセットを3,000円くらいで発売しているが、ピンホール写真はどうもピンホールを自分でつくる楽しみが大きい。

 とにかく費用をかけないでピンホール写真をとてみることだ。そうして前回の連載の記事と合わせてピンホール絞りの写真をやってみるといろいろな撮影に応用ができることに気が付く。

写真説明
(1)ニコンD1xに穴を開けたボディキャップを取り付ける。
(2)外に出てテスト撮影。露出時間は1秒。