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プリンターの現在


 日本屈指のラボとして知られる写真弘社。特にモノクロに関しては、多くの写真家からプリントを依頼され、「モノクロの写真弘社」として写真界に広く知れ渡っている。その若きプリンターのエース、住田泰俊さんに、今日のプリンター事情をお伺いした。


編集部(以下編):プリンターなられたきっかけは?
住田さん(以下住):東京工芸大学に通っていたのですが、大学にいる間にプリントの作る喜びというものに気付き、それを職に出来たらと思い写真弘社に入社しました。
編:プリンターになられてからどのくらいですか?
住:12年です。
編:その間に、下積み生活のようなものはあったのでしょうか?
住:昔は定着何年という事もあったそうですが、私の時はまずスポッティングを3ヶ月くらい、その後にベタ焼きで始めて暗室に入り、手札、キャビネといった小さいサイズのものから段々に大きいものを、という感じですね。
編:一人前になったと思われたのはどのくらいの時ですか?
住:一つの写真展のプリントを一人でまかされたときに、はじめて一人前になったかなと思いました。僕の場合は23歳の時ですから、3年くらいですか。でも本当に一人前であることを実感したのは5年くらいたったときですね。

編:自分の作品ではなく、他人の作品をプリントする上で考慮しなければならない点は何ですか?
住:そうですね。100点を取れるプリントを作るのではなく、お客様が満足してもらえる点数のものを作っていくことが必要です。自分の中では80点でも、納期に遅れないことが大切ですからね。
編:最近はモノクロ印画紙の質が落ちていると言われますが、そう思われますか?
住:私はそんなに昔からプリントをしているわけではありませんからわかりませんね。そういうことを言われる人は、大抵あまりうまくないので気にしていません(笑)もちろんバライダとRCには違いがありますが、バライダが全て良いと言うわけではなく、RCのしっとりした感じの方が合う写真もあります。バライダ信仰というものは無意味だと考えています。
編:マルチグレードペーパーを使われることは?
住:やはり使うことはありますが、商売には使いにくいペーパーですね。セーフライトが少し暗いので、見本と比べて焼くということが難しいですし、また見本がマルチグレードだと何号で焼かれているのか分かり難くて、むずかしいですね。フィルター操作で突き詰めていくことが可能な分、完璧なプリントに仕上げるに時間がかかりすぎて、商売にはなりにくいところもあります。
編:普段はどういったペーパーをお使いですか。
住:バライダではオリエンタルのニューシーガルとフジのミュージアムVGですね。シーガルは品質や在庫が一番安定していますから、安心して使えます。

編:この仕事をされていて苦労話のようなものがあれば教えて下さい。
住:やはり、無理な注文でしょうか(笑)例えば5号でも焼けないようなネガを持ち込まれたりする事ですね。私が経験したケースでは、バックを全て黒く塗りつぶしてくれと言う注文がありまして、見本はマジックで塗りつぶしてあるんですよ(笑)必死に小さな懐中電灯で照らしたり、紙で形を切り抜いて覆い焼きしたりしてその時の注文には応えました。最近デジタルによる合成が進んでいますからね、そういう注文は減るのではと期待しているんです。
 この世界に入ってすぐの時には、夢にもプリントが出てきましてね、一日中プリントしているような気分を味わったこともありましたよ(笑)
編:最近モノクロブームと言われていますが、どうお考えですか?
住:レンズ付きフィルムのモノクロ版が出たときにはあせりましたね。この仕事が来たら大変だと(笑)実際はミニラボに回っているようでこちらには来ませんでしたが。最近は婚礼の写真もカラーだけではなくモノクロを入れることが流行っているようで、そういう仕事も多くなりましたね。また、スナップを何百枚もモノクロでという仕事など、これまででは考えられなかったような仕事が増えています。

編:これまでに担当された作家の方々のお話をお聞かせ下さい。
住:荒木経惟さんにはよく仕事を任されますが、とても素直なプリントを好まれる方なのでこちらとしても楽ですね。プリントのこともよくご存じなので無理な注文されることもありません。また、大竹省二さんにプリントを依頼されたときには誉めていただきまして、とてもうれしかったですよ。やはり、この仕事をやっていて一番うれしいのはプリントを誉めていただくときですね。
編:お忙しいところありがとうございました。


Reported by Yuichi Shindo.