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新たな表現としての写真集

 横木安良夫さんといえば、ペンライトやポラロイドを使用した独特の作風ばかりか、タレントの写真集なども多数出版していることで知られている。
 今回はセルフタイマーで撮影された、写真家自からが写っている実験的なモノクロのオリジナルプリントを簡易製本したプライベート作品集を制作されているとのことで、お話伺いした。
 簡易製本による写真集は、もしかすると、新しい表現の手段になりえるかもしれない。アマチュア諸氏にとっても作品を制作し発表する有効な手段ではないだろうか。  横木さん自身による簡易製本機を使用した作品集制作の実際も、併せて読んでいただければ理解も深まるに違いない。(AK)



あきらけい(以下AK):まずは、きっかけからお聞かせください。
横木安良夫(以下横木):最近は世の中デジタルが多くなり、あまのじゃくな僕としてはデジタルではできないことをと考えたのです。デジタルだとなにか架空のイメージばかりになって、リアリティのかけた夢の世界みたいな、どれもが同じような感じになってしまう。人間のイマジネーションって結構貧困だなって思うんですよ。
 やはり表現は現実とリンクした手ざわりのようなものがあったほうが感動するし、写真はオリジナルプリントを、そのまま人に手渡すというか見せた方が今の時代面白いのじゃないだろうかと。ただ写っている情報を多くの人に見せるのなら、インターネット上にばらまくのも有効でしょうし、写真の手ざわりを欲しい人は買うのもいいんじゃないかと。
 実際のオリジナルプリントはクォリティとかほかのさまざまな理由で高価になってしまうわけだけど、僕は印刷の原稿に使う樹脂ベースの印画紙RCペーパーでプリントして、それを製本したらどうだろうかと考えたんです。印画紙に露光する手間はバライタと変わりないけど、そのあとの処理はいたって簡単ですからね。ある意味でRCぺーパーはバライタとは違った風合いがあって良かったりもするわけだし。それを小部数20部とか、多くても50部ぐらい作るのは面白いじゃないかと思ったんです。
AK:RCペーパーとはいえ、オリジナルプリントが23枚も綴じられている訳ですから、値段が高くなってしまうのでは?
横木:そうですね。人にやってもらっていてはできないでしょうね。アシスタントと手分けして一気にプリントしてしまいましたが、儲けようとしたらできないですね。
AK:安すぎる気もするのですが。
横木:うーん、考え方だよね。このくらいの値段が面白いんじゃないかな。これはプレゼンテーションのひとつなんですよ。例えば、写真展をやっても、まぁ、数百人が見てくれる程度でしょう。こういった写真集を50人に販売できれば、少なくとも50人は見てくれる訳だし、まぁ、それ以上に見てくれるとは思うけど。これが普通の写真集であれば、まず、商品的価値を問われてしまう。
AK:若い作家には酷ですよね。
横木:そうだね。こうした写真集を制作して、既成事実を作ってしまうというのがいいんじゃないかな。これだって、本だからね。それに、写真家って、撮ったらすぐに人に見せたいじゃない。
AK:確かにそうですね。
横木:写真が他のメディアに勝っている所は、すぐに出来る所だと思うんだよね。映画とか、ビデオとか、まぁ、音楽には即興演奏があるけど、自分のアイディアをすぐに形に出来るというのは、他にはあまりないでしょう? 写真をプリントで見せるとか、ポスターで見せるとか、写真展とか、雑誌のグラビアとか、いろんな方法があるけど、本という形で見せるというのは、また違ったメディアと考えられる。こうしたプリントを簡易製本した写真集もメディアのひとつとして捉えて表現するのは面白いんじゃないかな。
AK:デジタル写真がネットワークで流通するというのはどうでしょうか。
横木:少なくとも、そのままではモノとしての価値はないと思うね。こうした本だと、モノとしての価値があるじゃない。ただ、デジタルも、それを誰かに贈るとか、そういうことになればモノとしての価値が生まれるけれど。例えば、本が焼失するのと、コンピュータの中のゼロ、イチのデータが消えるのとでは、感じ方が全く違うんじゃない?
AK:最後に、インターネットなどはどうお感じになられてますか?
横木:インタラクティブする相手が、非肉体として感じても、やはり相手は生身の人間であることを常に自分に言い聞かせておく必要があると思う。バーチャルな世界は数値化された価値が優先されて、うーん、例えば、本当の肉体ではないTVゲームが、どんどんエスカレートしないとつまらなくなってしまうような・・・・。UNDOのないのが現実世界でしょう。生命と肉体のない精神が増幅するのはとても怖いと思うな。
AK:その通りだと思います。常に相手を意識して利用しなければならないでしょうね。今日はありがとうございました。

横木安良夫氏の作品は、今月のスペシャルギャラリーに掲載されています。