TopMenu

進化する写真集印刷

 これまで、印刷による写真の再現性はプリントに劣ると、頭ごなしに決めつけられてきたきらいがある。
 しかし近年発行された竹内敏信氏の写真集「雪月花」はその考えを大きく覆す素晴らしい印刷で刷り上げられ、シャープネスなどはプリントよりも勝るのではないかと思われる程の出来映えだった。印刷された写真は実際に写真展にも使われ、プリントに変わる新たな写真表現の方法としても考えられつつある。
 また、オンデマンド印刷やデジタル入稿など、デジタル技術の普及により、印刷の世界も変化しつつあるという。
 そこで実際に写真集「雪月花」を印刷した三浦印刷株式会社を訪問し、品質管理室室長の池田征夫さんに最近の印刷技術についてお話をお伺いした。(SIN)

高精細印刷・高濃度印刷

この写真集「雪月花」や、写真展での印刷によるパネル展示の印刷はどういった技術を使って印刷されているのですか?
 高濃度印刷高精細印刷という二つの技術を使って刷り上げました。高濃度印刷は通常の印刷よりインキの量を20%から30%増やして、色に深みを与える技術です。実際に見比べていただければ(右図参照)特に赤と青でこれだけインキの量が違うのが分かると思います。
 また、印刷物は網点という小さな点で調子を表現するのですが、その網点の数を細かく多くして、より精細に表現できるようにしたのが高精細印刷です。1インチの間に通常175個の網点がならび175線と表現するのですが、300線以上の物を高精細印刷と呼びます。
 この写真集や写真展でのパネルでは、二つの技術を組み合わせ、写真に合わせて両方の技術を用いたり、それぞれ単独で使用したりしています。


なにか特殊な印刷機で刷り上げられるのでしょうか?
 いえ、印刷機は通常と変わりません。例えば高濃度印刷ですとインキの量を多くする分色がつぶれ易くなりますから、製版の段階から調整を行って対処します。ハード面ではなく、全てソフト面で対処しています。最近では高精細用などの版材やインキもありますが、我々はそれが出来る前からやっていますから、特にそういった物に頼らずに行って来ました。

 実際の工程ですが、まず文字組版を行います。現在の組版は、従来からの写植機や電算写植システム、そしてマックを使ったDTPまでが混在している状態です。
 カラー写真や図版等はカラースキャナでデジタル化され、CEPS(従来の電子製版)やDTPで組版(版下)と組み合わされ、刷版行程にて印刷用の版材に焼き付けられます。
 その版を使って、色などをチェックする校正刷りをします。通常、専用の校正機で校正はするのですが、高精細・高濃度印刷の場合は実際の印刷機での校正刷りが必要になります。
 そして本印刷です。


実際に拝見していますと、シャープネスなどは実際のプリントよりも優れていて、濃度なども実際のプリントに匹敵するものがあると思います。
オリジナルプリントのような形で販売するといったことも、可能なのではないでしょうか。
 実際、高濃度印刷の濃度は2.0〜2.2程度あります。通常のカラープリントでの濃度は2.4くらいですから、かなり近いレベルまで濃度はきていると思います。
 竹内敏信さんの場合も実際に検討しましたが、我々もそういったことが可能だと思います。


デジタル

次に印刷のデジタル化についてお話をお聞かせ下さい。
近年、直接データで入稿し即印刷が出来るオンデマンド印刷が話題になっています。少部数での印刷ならばコスト面でも有利とされ、自費出版の写真集などでは応用が可能なのではと思うのですが、如何でしょうか。

 まずコストの面ですが、300部程度がボーダーラインと考えていいと思います。それ以上なら費用の面からも普通の印刷の方が有利です。
 品質ですが、今あるオンデマンド印刷機はカラーコピーの応用ですから、どうしても普通の印刷のように階調は上手く表現されません。
 ただ、これから通常の印刷によるオンデマンド印刷機が登場し始めていますから、そうなってくれば話は変わってきますね。

最近はデジタルデータでの入稿もあると思いますが、これまでのフィルムでの入稿とはどう変わってくるのでしょうか?
 色の問題ですね。これまでのフィルムによる入稿ならば、そのフィルム通りに色を再現していれば良かったのですが、データの場合はそのモニターやスキャナによって色が変わってきます。どう色を再現するのか、アートディレクターや写真家など、実際に撮影したオリジナルの被写体を見ていた方に指示を出して頂かなければなりません。従って、カラーマネジメント技術の一層の向上が望まれます。つまり、デジタル入稿の場合は写真家の方にある程度印刷の知識があると有り難いですね。

デジタルカメラの撮影による印刷はいかがでしょう。
 ワンショットで撮影するのではなく、スキャニングしていくタイプのデジタルカメラではA2程度までは可能です。リーフによる撮影では、A4ぐらいまでしか実用に耐えません。高性能な35mmベースのデジタルカメラでしたら、もっと小さなカットにしか使えませんね。現在の35mmカラーフィルムは充分にB全ぐらいまでは印刷に耐えます。ただし、現在でもデジタルカメラは目的にあわせて使用すれば広い用途がありますから、今後の性能向上が期待されます。

どうも長い時間ありがとうございました。

写真はFujiFilm DS-7で撮影しています。