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新しい作家を見てみたい

 営団地下鉄四谷三丁目駅から歩いて一分もかからないところに「Mole」はある。程近い新宿の猥雑さをどこか感じさせる街並みの中、ひっそりとたたずんでもう10年。すでにミニギャラリーとして、また写真専門書店として広く知られた存在である。

 「ただ作品を発表する場所ではなく、写真のロジカルな部分を議論したりする、写真家同士の”場”として、Moleは作られました」御自身も写真家である代表の津田基さんは、Moleについてこう語る。
 「僕が写真を始めた1976年頃というのは、既存のギャラリーや写真雑誌に対して、作家が自ら作品を発表する場としてインディペンデンスなギャラリーがたくさん出来たり、また森山大道さんや荒木経惟さんや東松照明さんなどがワークショップをやっていたりしていて、写真界の中で大きなムーブメントが起こっていた時期だったんです。その中で写真を始めたものだから、自分たちが写真を作って、それをいろんな権威におじぎしたり頼み込んだりして発表するんではなく、自分たちの手で発表しても良いんだということが身に染み着いている。それが、このMoleを作っている基本になっていますね」
 作家の絞り上げた作品を見るにはちょうど良い、15点程度展示できるこじんまりとした空間。1年の3分の1をギャラリー主催の企画展、残り3分の2を貸し画廊として運営されているが、貸し画廊としての部分に「運営者の考えを越えた、新しい写真の価値観が入ってくる面白さ」があるという。貸し画廊といっても「その作家の作品として成立していること」という最低限の条件が展示に課せられる。「ただ撮りました集まりました、だから写真展でもやりますかとか、そういう形のものは、見たくないし展示したくないじゃないですか」と断言されるだけあって、作品はレベルは高い。「日本のギャラリーに足りないものは独自性だと思う。Moleの独自性は、新しい作家を見てみたいという欲望にあります」若手の進化していく過程を大事にしたいと語られる津田さん。どうしても完成した過去の作品を見ることの多い大手ギャラリーとはひと味違った、Mole独自の味を感じることが出来る。

 Moleは写真専門書店を併設しており、また版元としていくつか写真集も出されている。店内にびっしりと並べられた写真集の中には、絶版になっているものから自費出版のものまで、他では簡単に手に入れることのないものまで、各種取り揃っている。
 「写真集を本としてではなく作品として見ると、今の流通形態には任せていられないんです」と語る津田さん。システム化された現在の書籍流通システムでは、写真集はすぐデットストックにされ、見る側の欲しいという希望に答えることが難しい。Moleでは在庫している写真集をすべて本棚に並べ、客が手に取ることが出来るようになっている。「欲しくなる衝動に答えたい」という津田さんの言葉は、我々写真愛好家にはとてもたのもしいものだ。

 ギャラリー・写真専門書店と、写真に対する欲望を次々と具体化されていく津田さんには「写真図書館」という次の構想がある。「写真を楽しむ環境がないという日本の現状を変えていきたい」と語る津田さんに、心からエールを送りたいと思う。

Mole
〒160新宿区四谷3-7
営団地下鉄丸の内線四谷三丁目駅下車
四谷三丁目の交差点を四谷方向に進み一番最初の角を左に曲がる。
Tel 03-3357-4975

撮影にはApple QuickTake100を使用しました