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第9回
武田 花

ご活躍されている写真家に、写真を学ぶ若者がお話を聞くコーナーです。第9回は、武田花さんです。

質問者(以下 質):写真を撮りはじめられたきっかけとか、略歴とかを、、、、。
武田花(以下 武):略歴といってもねぇ。昭和26年生まれ。もうすぐ46歳になります。東京生まれで、、、、
質:写真学校などへは?
武:ちょっとだけ行ったの。高校出てね、ちょっと行って、辞めちゃったの。その後、アルバイトなんかして、高校出て2年目で大学へ入って、卒業した後もずっとアルバイト生活、というのがだいたいの略歴。それからね、えーと、三十いくつの時に猫の写真展を初めてやって、その時も写真がお金になるなんて思っていなかったんですけどね。写真展をやったら、猫のペット雑誌みたいな所から少し仕事が入るようになって、でも、その時もずーっとバイトはしてました。それから、どれくらいたってからかなぁ。それで、だんだん仕事が入るようになって、今のようになっちゃったの。
質:アルバイトは、どういうのをやられていたのでしょうか。
武:出版社でやったこともありますけど、お弁当屋さんとか、病院とか、喫茶店とか、水商売も経験しましたよ。結構色々やりました。鰻屋さんとかもね。
質:鰻お好きなんですよね。
武:そそ、鰻好きなんですよ。(笑)
質:お薦めの鰻屋さんとかは。
武:私がアルバイトしていた所はたいして美味しくなかったんだけど、赤坂の宮川さんというところのは、当時赤坂に住んでいたこともあって、よく食べました。父も鰻好きだったもので。
(しばし鰻の話題でもりあがる)
質:では、次に、カメラの変遷をお聞かせいただけますか。
武:一番最初は、父が高校出てすぐに買ってくれたんです。それがペンタックスのSVでした。その時は、私は写真をやりたいなんて思っていなかったんです。とにかく勉強できなくてさ、大学にも行きたくないし、趣味もないし、親がね、誰かに薦められたんじゃないかと思うんだけど、カメラでも買ってやって、写真でも趣味にしてみたらということだったみたいです。でまぁ、買ってもらおうか、ということになったんです。その後ね、それが駄目になってしまって、ペンタックスのSPを手に入れたような気がする。で、その後にね、ペンタックスのKなんとかだったかな。もちろん中古だったんですが。その後、私の叔父が仕事でドイツにずっと行っていまして、ドイツでカメラ買うと安いぞ、と、言うんです。ライカというのはすごいらしいぞ、とか。その叔父さんが、また買い物好きなものだから、買ってやる買ってやるって、で、買って持って来てくれたんです。それがライカRってカメラで、それがもう、断然写りがいいんですよ。私は猫を撮ってて、猫って、お墓によくいるんですよ。でね、墓石がよく写るんですよ、ライカって。それにびっくりしました。墓石の描写がすごいぞって。それをしばらく使ってました。今は、ライカのM2を使ってます。ほとんどそれで撮ってますね。
質:やっぱり35mmですか。
武:試しにね、6x6を人から借りて撮ってみたんだけど、なんかね、四角いのって駄目なのかな。それでね、やめちゃった。荷物が多いのも嫌だし。20代の頃はそうでもなかったんだけど、今はもう、とにかく荷物が多いのは嫌。
質:私なんて、今でも荷物多いの嫌だ。(笑)M2をお使いとのことですが、M6やM4ではなく、M2を選ばれたというのは。
武:それはね、今同居している人がもってて、くれたんですよ。嬉しいし、ちっちゃくて可愛いじゃないですか。ハンドバックにも入るし。それで使っているだけなんですよ。
質:ええっ。RからM2ですから、深い意味があると思ってました。(笑)いいカメラですけど、フィルムの交換大変じゃないですか?
武:いいのよ、私は素早く交換する必要なんて全然ないんだもの。このあいだね、ある写真家に、よくMで撮影してるな、って言われましたよ。フィルム交換がイライラするって。自分が高揚して撮影しているのに、フィルム交換にもたついていたらそれが冷めてしまうって。でもね、私の場合はそういうの全然ないからいいの。
質:道具に対するこだわりっていうのは。
武:ないない。だからね、中古カメラ市に連れていってもらった時に驚きましたよ。
質:撮影地についてはどうでしょう。
武:うーむ、あんまり、、、、。東武線沿線を撮るようになったきっかけとして、蛇センターへ行く途中で見た高架線からの町並みが気に入って、というのはありましたが。あとはね、海もいいかなーって、車で行くようにもなりました。そんな感じ。
質:作品の評価で、一番嬉しかったことを教えて下さい。
武:えーとね、色々言われたような気がするんだけど、急に言われてもねぇ。何年か前に、写真がうまくなったと言われた時には嬉しかったですけどね。私は自分の写真が全然かわっていないと思っているから、うまくなった、と言われて、おおっ、と思いましたよ。あとは、、、、、自分が撮っていた時の気持ちをずばっと言い当てられた時は嬉しいですよ。例えば、花ちゃんって、気持ちのいいとこしか撮らないでしょ、とか、夢に出てくる景色みたい、とか、、、、なんか、評価、というのとも違うかな。
質:影響を受けた写真家は?
武:いないなぁ。
質:ひとでもいいのですが。
武:うーん、両親とか、、、、。知らないところでは影響を受けているとは思うんだけど。
質:カラー写真についてはどうでしょう。
武:何年か前に2年間だけ雑誌にどうしてもって頼まれて撮ったことはあるんだけど、それが終わったらやめちゃいました。その時は35mmのニコンをつかったんですけど、被写体は、色が好きなものばかりを撮りましたけど、、、、今でも撮ってみようかな、と思うこともありますよ。
質:モノクロがお好きなんですか。
武:うーん、ひとの写真では、カラーで好きなものもありますよ。でもね、はじめてみると難しいしねぇ、、、、。
質:話が前後しますが、撮影日の行動パターンなどを。
武:その日によって違うんだけど、猫の写真を撮っていた頃は、夏なんかは早起きしてね、適当に電車に乗って、猫のいそうなところへ行って、若い頃は元気だから延々と歩いちゃったりして、食堂行ってご飯食べて、また撮影して、夕方になるとビール飲んで帰ってくる。ずーっとそうだった。猫撮っている時は。
質:今日は朝から撮るぞっ、て感じで出かけられるんですか?
武:天気がいい時は、、、、やっぱり、猫撮りたかったですからね、当時は。楽しくって。目的とかなかったですけど。撮れなくて帰ってきても平気でしたね。ま、いいやって。
質:そういうおおらかな心がなくても写真は続けられれないかな。
武:そうじゃないほうがいい場合もありますよ。私ね、なまけものなのよ。ううむ、だからね、撮らなきゃ、って気持ちが起きないと駄目かもしれない。まわりのひと見てるとさぁ、活躍してるひとはなまけものじゃないもん、やっぱり。(笑)あれみると、あーあ、って思うもん。
質:文章と写真を一緒にすることについてどうでしょう。
武:えっとね、最初は文章なんて全然書かなくて、小さな猫の写真集を出そうとしたら、出す予定だった出版社がつぶれちゃったの。ある程度まで出来ていたのに。これはえらいこっちゃって、もったいないじゃない。デザイナーにも悪いし。それを持ってあっちこっちの出版社まわったんだけど、みんな断られちゃって、やっとね、何年かしてから知り合いのつてで紹介された出版社の方に、こういうのは文章が載ってるといいんだよね、って言われて、最初は断ったんですけど、本も出したいし、仕方なく書いたのが最初。で、そういうことを一回やっちゃうと、今度は文章と写真と一緒にお願いします、ということになってしまいました。
質:いきかがかりじょうというか。
武:そうそう。「猫・陽のあたる場所」というのが最初です。
質:エッセイとかも。
武:そのうち、写真はいらないけどエッセイだけ、という仕事もあって、まぁいいや、って、書きました。
質:「東京ワイルドキャッツ」の中に入っているひとことふたことの文章が気になったのですが。
武:あれはね、デザイナーが私のエッセイの中から文章を抜き出して入れたいって言うから、ああなったの。
質:どの程度まで、本を作るときに関わりになるんでしょうか。
武:えっとね、印刷だけは気になるんで気にしますが、私はデザイン能力に欠けるというのが自分でわかっているので、、、、見せ方というのは、どうやら方法があるみたいじゃない。自分じゃわからないし、めんどくさくなっちゃって、たいていお任せします。気に入らない時は口出ししますけど。
質:最初はいきがかりじょうだった文章を書くことですが、今はどうでしょうか。
武:面白い時もあるよ。すごく嫌な時もあるけど。
質:お話しを伺っていて、なんだか写真を撮られているということに、運命的な、というか、そういう印象を受けたのですが、ご自身ではいかがでしょうか。
武:うーん、運命的というより、運がいいんじゃないかなって。そういうのって、運命的っていうのかな。(笑)
質:運を引き寄せる力。
武:なんかね、いまだに続けられているというのもね。たまたまやってみたら好きだった、というのもあるけど、飽きっぽい私が続けられているというのも、途中で色々あった運のよさ、みたいなものがありますね。
質:写真のどういうところがお好きですか。
武:私はね、景色を見るのが好きだったの。子供の時から。そんな奇麗な景色じゃなくてもよかったの。それがあってたかな、と。
質:聞いたりするよりも、見る方へ。
武:そうだったかも知れない。
質:お写真を見ていると、絵はがき的な風景ではなくて、なんか、そこにある、気に入ったものをぱっと撮っているんだなぁ、という感じがします。
武:そう、そうなの。ただね、あんまり、こういうところに行って、こういう写真が撮りたい、というのが浮かばないの。だから、どこか行きたいところがあったら行って写真を撮ってきて下さい、って仕事がきても、行ってみなきゃそこが好きかどうかわからないから困っちゃうの。
質:いろんなところへ出掛けるのがお好きですか。
武:そうですね。でもね、家にいる猫が駄目な猫でね、外国へは行けないの。連れて行っちゃおうかな、と思っても、猫は飛行機の客室に乗せてくれないんですよね。貨物室じゃ可哀想だし。
質:お好きな映画はありますか。
武:それはねぇ、話し出したらきりがない。(笑)
質:お好きな監督は。
武:言い漏らしがないように全部言わなきゃ。あとから思い出すと悔しいじゃない。(笑)ちょっと待ってね。えーと、
(映画の話でもり上がる)
質:本とかは。
武:子供の頃から怖い本が好きで、大人になると怖さの質というか、かわってきましたが、怖い本が好きです。昔の人の小説が多いですが。
質:音楽はどうですか?
武:いろいろですね。ほんと、いろいろ。サザンも黒人音楽も。ジャズはジミー・スコット意外は苦手ですが。
質:抽象的な質問ですが、心地よいこととは。
武:心地よいこと? この春はねぇ、なんだか眠くて、なにやっててもすぐに眠くなって、この辺に猫と一緒にごろごろって寝てるのが気持ちよかったです。(笑)ほんとにね、死んでもいいやってくらい気持ちよかった。
質:いま猫は。
武:寝てる。昼間は寝てるの。
質:作品についてですが、普通の風景でもちょっと、なんというか、犯罪の香りはしないんですけど。
武:犯罪の香りが欲しいんですけどね。(笑)私ね、自分の写真にできれば犯罪の香りが欲しいわよ。
質:犯罪の香りっていうか、ちょっと闇っぽい、というか、陰っていうか、感じます。うまく言えませんが。
武:そういうのはあります。写真を撮らないにしても、風景を見ていて、ふっと頭に浮かぶのが死体だったりするの。なんかね、なんかその向こう側に死体がありそうな、とかね。
質:うらぶれてるのがノスタルジーじゃなくて、犯罪とか、そういうものにつながっている感じというか。
武:そうそう、そういうのが好きなのよね、なんか。でもねぇ、私の写真はノスタルジーって説明されることが多いよね。あのね、ほのぼの路地裏写真家って紹介されたときには、うわあっ、て感じでしたよ。(笑)いわれちゃったようって感じで。でも、まぁ、いいやって。
質:文章を拝見しても、傍観者というか、さっぱりしてますよね。ほのぼのが全くないわけではないのだけれど。
武:でもね、ほんと、そう思っているひとが多いのね。
質:撮ってる時の気持ちというのは、、、、ほのぼのとしているわけではないんですよね。
武:嬉しいですけどね。好きな景色を見つけるとすごく嬉しい。私はこれが見たかったのよ、とかね。でもね、うちの母によると、私が写真を撮っている姿はすごくおかしいらしい。へんなかっこうだって大笑いするの。だからね、写真撮っている姿を人に見られるの嫌い。
質:興奮してるというか。
武:ううん、とにかくかっこ悪いの。カメラを構えて近づいて行くというのが。
(かっこいいカメラマンについてややもり上がる)
質:今後のご予定をお聞かせ下さい。
武:ないの。(笑)撮りたいものがなくなったら写真をやめよかな、とは思っています。
質:写真展とかは。
武:全然予定なし。(笑)
質:木村伊兵衛賞を受賞されて変わりましたか。
武:なーんも。かわんないわ。でもねぇ、もらったときに、うちの母とふたりで、いゃあ世の中には不思議なことがあるもんだね、って笑ったの。小金が入るよって言われて、どういうことかなぁと思ったら、一年くらいは受賞者へのインタービューや作品を使いたいというのがちょくちょくあって、なるほど、これかって。(笑)一年たったらぱったりだったわ。あとね、親戚が少し認めてくれたわ。親戚はね、バカ娘ばかむすめって思ってたみたいなんだけど、花ちゃんも、やれば出来るじゃん、だって。
質:今日はお忙しいところ、長時間ありがとうございました。


インタビュアーの感想

 ひどく緊張し、すっかり狼狽してしまいました。聞き忘れた事も多く、少し後悔もありますが、拙い聞き手にお付き合いいただき、大変感謝して居ます。
 くもさんはお昼寝中で会えなかったし、そして花さんの源氏名は何だったのでしょう。

東京綜合写真専門学校
はらあきこ

 インタビューを終えて、まず思ったのは、武田花さんは写真家である以上に武田花さんなのだなぁということです。(端からみるとゴージャスなことなのかも知れません)
 写真の良さは言うまでもないですが、もし写真家でなかったら、ロシアの女諜報員とか似合う方だと思いました。有り難うございました。

東京綜合写真専門学校
ときたみか


Reported by AkiraK.