TopMenu




 父の四十九日の前日、母が何気なくレターセットの中から、「貢殿」と書かれた一通の封筒を見つけた。父の「書きおき」だった。
 いつ書いたのかは不明だが、丹念に達筆でまとめられていた。死を予期したことなどなかったはずの父が、どんな気持ちで文を書いたのか、私には読みにくい字をひとつづつ辿った。
 それは、まさに父のつぶやきだった。世間でいう「遺言」などという立派なものでなく、父のいつもの信条を、いくぶんセンチになって綴ったものであった。しかし、そこにはまったく素朴な家族への想いが詰まっていた。まるで、亡くなる寸前に言いたかった言葉をそのまま残しているようだった。
 財産も借金も残すことなく逝った父が、私に残したささやかな「言葉」。それらをどのように日々に生かすか。私のつぶやきが続く。

97年4月 大西みつぐ


大西みつぐ
1952年  東京生まれ
1974年  東京綜合写真専門学校卒
1985年  「河口の町」で第22回太陽賞
1993年  「遠い夏」で第18回木村伊兵衛賞
写真集に「WONDERLAND80-89」 個展多数。
東京綜合写真専門学校講師、東京カメラ倶楽部会員
データー:Apple QuickTake100 &150

町があるから生きていける。町はいつでもそこにある。
大西みつぐ絵葉書帖2「町の灯り」・定価600円
mole(四谷)・平永町橋ギャラリー(神田)・アートグラフ(銀座)・ホカリファインアートギャラリー(青山)・オレゴンムーンギャラリー(江東区猿江)・ガーディアン・ガーデン(銀座)・東京都写真美術館ミュージアムショップ(恵比寿)ほかで発売中。