フォトエッセイ

聖 地 巡 礼

山形晴美


第4回 正義の味方

 東北線が大宮を過ぎた頃から風景が変わり、日本の原風景の田圃が広がってくる。黄金色の稲穂が満作の重たい頭を垂れて迎えてくれる。ここは埼玉県北部の田圃地帯。東北新幹線が目の前の田圃の上を通過して行く。区画整理されて建ち並んだ住宅や商店が田の中へ少しずつ押し寄せてきていて、いずれこの辺りの田圃は無くなってしまうだろうことを予感させる。この町の古い農家の箱入り娘シーちゃんは肢体不自由と知的障害という重複障害を持ち、日頃は東京の施設で生活している。普段は素直で明るく優しい彼女だが、何か問題が起こると、圧倒的な存在感で不正やいたずらをバッサバッサと裁いていく。その頑固な正着惑で納得がいくまで頑張るものだから職員達も最後まで付き合わされることになるらしい。身体もコトバも不自由な訳だから、その表現の仕方はおのずと食事拒否・トイレ拒否といったストライキ手段で訴えることになる。これには回りの者も困る。ほっておく訳にはいかないのでストライキの原因を究明することになる訳だが・・・ その内容はいろいろで、友だちの不正の告発であったり、逆に友だちに代わって代弁者になったり、また時には親への注文や職員批判をすることもあるらしい。ところが、このストライキの原因究明のための話し合いが、結果として職員間のコミュニケーションに繋がり、強いては入所者への理解を深めることになると言う。
 シーちやんは何と素晴らしい役割を担っているのだろうかと私は感心した。彼女は知らない間に人を育てている。彼女の発する様々なサインが職員を動かし、友だちの心を救い、人と人を結びつけていく。どんな人間にもそれぞれの役割があるということを気づかせてくれる。時々人生の何もかもが分かっている様に見えることがあるのは、それが彼女の役割であるからなのだろうか。
 人の間違いを気づかせてあげようと、正義の味方シーちやんは大きな口を開けて笑いながら今日も行く。